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 火照った身体に、ひんやり冷たい夜の風が気持ちいい。

 外の空気に冷やされて幾分冷静さを取り戻した雪矢の頭の中には、次々と疑問が浮かび上がってきた。

 どうして佐竹にこの倉庫の場所が分かったのか。
 男の頭に突きつけていた拳銃らしき物は一体どうやって入手したものなのか。
 そして、良二は無事なのか。

「伍代さん、リョウ君は……?」

 自分の身体を支える大男の顔を見上げ、一番気になっていたことを尋ねると、伍代は厳ついヤクザ顔を心なしか緩めて笑みらしきものを見せた。

「大丈夫ですよ」
「でも……足、痛そうでした」
「念のため今、病院に連れて行かせています」

 どうやら、あの場に置き去りにされてしまった良二のため、伍代が人を手配してくれたらしい。

 安心する雪矢に、普段は余計なことを言わないはずの男が珍しく言葉を付け加えた。

「あいつが貴方を連れ去った車のナンバーを知らせてくれました」
「そうだったんですね……。じゃあ、リョウ君のおかげでこの場所が分かったんだ」
「雪矢さんを守れなかったとしょげていたので、今度会ったら褒めてやって下さい」
「そうします」

 佐竹から良二の世話係を命じられたときは相当戸惑っていた様子の伍代だが、この男なりに良二を可愛がっているのだろう。

 ほんわかと温かい気持ちになる雪矢の背後からは、悲鳴交じりの怒鳴り声や、何かが派手にぶつかる音が響いていた。

 佐竹の声は聞こえないので心配するほどのことはなさそうだが、薬の効果で血が昂ぶっていることもあり、倉庫内の様子が気になって仕方ない。

「雪矢くん、大丈夫か」
「ん……?」

 伍代の腕に支えられたままボンヤリと倉庫の中を気にしていた雪矢は、どこかで聞いた覚えのある声に顔を上げ、大きな目を数回瞬かせた。

「古森さん!」

 夜でも分かるほどに日焼けした肌と、マッチョな身体。爽やか笑顔。
 そこに立っていたのは、佐竹のかつての親友で、高田の失踪騒ぎの原因となった男……古森だった。

「どうしてこんなところに?」
「話は後だ。まずは水を飲んで」

 強引にペットボトルを手渡され、とりあえず言われたとおりに水を口に含んだ瞬間、雪矢は自分の身体が水分を欲していたことに気が付いた。

 乾いていた喉を潤そうと、一気に水を流し込み、あっという間にボトルを空にしてしまう。

「気分はどうですか」

 伍代に訊かれて、雪矢は「大丈夫です」と即答した。

 実際、身体が熱く火照って血が昂ぶっている感覚はあるが、具合が悪いという訳ではない。
 むしろ、普段より今の方がよっぽど元気で血の気が有り余っているくらいだ。

「あー、右手は……消毒して止血しといた方がよさそうだな」

 出血している雪矢の手に気付いた古森の言葉に、伍代が頷いた。

「車に救急箱が入っています。待っていて下さい」

 伍代が車に向かうと同時に、倉庫の中からは何とも言えない苦しげな悲鳴が響き、雪矢と目を合わせた古森は肩をすくめて笑って見せた。

「雪矢くんが無事じゃなかったらきっとこんなモンじゃ済まなかっただろうな」
「あの、古森さんはどうして」
「電話一本で駆り出されたんだよ。この辺で備木仁会の系列会社が管理してて、今は使われていない空き倉庫はないかって」

 そういえば、古森は個人で輸入業を営んでいるという話だった。

 関係者のツテをたどれば、怪しい倉庫を見つけることはそう難しいことではなかったのだろう。

「そのうち飲みに行けたらと思って一応番号は教えておいたんだけど、まさかいきなりかかってくるとは思わなかったからな。驚いたよ俺も」
「――ご迷惑、お掛けしました」
「まさか! 雪矢くん絡みじゃなきゃアイツから俺に連絡することなんてなかっただろ。逆に感謝してるよ」



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