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○●○


 『KARES』で雪矢たちの到着を待っていた三上と香田は、高田が姿を現した瞬間、安堵の表情で駆け寄り、無事を確認して帰還を喜んだ。

「店長……ご無事で何よりです」
「ホント、心配し過ぎてハゲるかと思いましたよ!」
「ごめんね、ごめんね……!」
「当然、今月は特別手当を上乗せしていただけるんですよね」
「もちろんよ! 大奮発しちゃう」
「マジですか! コーヒー豆の現物支給とかじゃないですよね」
「コウダちゃんの分はそうしてあげてもいいわ」
「勘弁して下さいよ〜」

 家族のように再会を喜び合う三人の姿を見ていると、雪矢の胸にも再びじんわりと熱いものが込み上げてくる。

 本当に、高田が無事でよかった。
 利子の身体払い云々は別問題として、佐竹には感謝してもし足りないくらいだ。

「ミッチー先輩、コーヒー淹れるから飲んでいって。佐竹さんもリョウちゃんも。ユキヤちゃんもね!」

 久しぶりに高田のコーヒーが飲めることが嬉しくて、それまでの気まずい空気も忘れて古森の後に続き、カウンター席に腰を下ろそうとした雪矢だったが。
 突然伸びてきた手に腕を捕まれ、そのまま身体を引き寄せられてすっぽりと佐竹の腕の中に収まったまま身動きが取れなくなってしまった。

「あの……佐竹さん?」

 古森と良二は特に驚いた様子もないが、高田は細いキツネ目を限界まで大きく開いて固まり、車内での会話の流れをまったく知らない三上と香田は、何が起こったのか分からずに硬直している。

「コイツは借りるぞ」

 雪矢の身体を抱いたまま佐竹が低い美声で呟いた一言に、一瞬フリーズしていた高田はようやく我に返って二人を引きはがそうと、物凄い形相でカウンターテーブルを乗り越えてきた。
 が、ヒョロッとしたその身体を何故か古森が後ろから押さえ、羽交い締めにしてしまう。

「駄目よ! 佐竹さんはユキヤちゃんにお触り禁止なんだからっ」
「落ち着けって、ノボル」
「離して!」

 高田がこんなにも真剣に雪矢の身を案じてくれていることに感動したためなのか、それとも煙草の香りのする佐竹の腕に抱かれているからなのか、雪矢の鼓動は少しずつそのペースを速めていた。

「話をするだけだ、何もしない」
「もう既にしちゃった後じゃないのよっ!」

 高田の言葉に香田だけは「何を?」と首を傾げるが、三上は佐竹と雪矢の間に何があったか察した様子だった。
 もしかしたら、勘の鋭い副店長は佐竹の過去について教えてくれた時点で二人の間に何かあったことには気付いていたのかもしれない。

「ユキヤ君を心配するのは分かるけど、佐竹もこう言ってることだし。話くらいさせてやってもいいだろう」
「でも……っ」

 眼鏡越しに不安げな視線を投げかけられて、雪矢は真っ直ぐに高田のキツネ目を見つめ返し“大丈夫です”という意味を込めて頷いた。

 佐竹は、雪矢が本当に嫌がるようなことはしない。
 借金のカタに抱かれておきながらこんなことを考えるのも変な話だが、雪矢の中には、佐竹への確かな信頼があった。

「――分かったわ。でも、お持ち帰りは絶対に駄目よ! 話だけならお店の外で十分でしょ。終わったらユキヤちゃんを返してちょうだい」
「過保護な母親みてえだな」
「何よっ、佐竹さんのせいじゃない!」

 後ろから身体を抑えられたままキャンキャンと騒ぐ高田を軽くあしらって、佐竹は雪矢を店の外へと連れ出す。

 ドアが閉まる前に佐竹と古森が視線を合わせて軽く頷き合ったのが見え、かつての親友同士の間にまだ確かな絆が残っていたことに雪矢の胸はほっこりと温かくなった。



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