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○●○


「ユキヤちゃん……っ!」

 久々に日本の地を踏みしめた高田は、到着ゲートから出て雪矢と佐竹の姿を見つけた途端、手荷物を放り投げて駆け出し、雪矢に抱きついてきた。

「ごめんね、ごめんね。心配させて、迷惑もかけちゃって」
「店長、無事でよかった……!」

 額に当たる高田の顎鬚がジョリジョリして痛いのも、今は嬉しい。
 久しぶりに見る高田は想像していたよりずっと元気そうで、相変わらずのオネエ口調に雪矢の目からは涙が零れ落ちそうになった。

「ひどいこと、されませんでしたか」
「大丈夫よ。ユキヤちゃんは……ちょっと痩せちゃったわね」
「気のせいですよ。お店は三上さんと香田さんがしっかり守ってくれていました」
「二人にも謝らなくちゃ」

 帰国した乗客とその出迎えで賑わうロビーで、顎鬚を生やしたオネエ口調の男が男同士で熱い抱擁を繰り広げている光景はかなり目立つが、そんなことは気にならない。

 しばらく抱き合って、二人で再会の喜びを噛み締めていた雪矢と高田だったが、いかにも不機嫌そうにそれを見守っていた佐竹が高田の頭を軽く叩き、雪矢を引き剥がして自分の腕の中にすっぽりとその身体を納めてしまった。

 その後ろでは、二人の仲を誤解している良二が「うわー……ヤキモチが露骨っす」とモジモジしながら、佐竹に生温い視線を向けている。

「おい、高田」
「佐竹さん……」
「考えなしに行動して従業員にまで迷惑かけやがって、てめえは何を考えてやがるんだ」
「ごめんなさい。佐竹さんにも迷惑をかけて……。お兄さんの組の名前まで使わせちゃったなんて、本当にどうやってお詫びしていいのか」
「侘びを入れるならコイツに謝れ」
「ユキヤちゃんに?」
「コイツが身体を張ってお前を守ろうとしたから、俺はそれに協力してやっただけだ」
「え……っ!? か、身体って」

 身体を張って、という佐竹の言葉に何かを感じたらしい高田が細い糸目を見開いて、佐竹の腕の中にいる雪矢に何かを言いかけたそのとき。

「ノボル」

 少し遅れて到着ゲートから出てきた男が、投げ出されていた高田の荷物を拾って雪矢達の方へと向かってきた。

 昇というのは確か、高田の下の名前だったはずだ。
 近付いてきた男の顔を確認して、雪矢は「あ……」と小さな声を漏らした。

 日焼けした浅黒い肌に、太い眉とゴツゴツした輪郭が今時珍しいほどの男臭さを感じさせる、マッチョな男。

 爽やかマッチョだった学生時代とは随分イメージが違ってしまっているが、高田を「ノボル」と呼んだその男は、佐竹と一緒に写真に写って笑っていた、かつて佐竹の親友だったという男だったのだ。

「ミッチー先輩」
「古森……」

 マフィアに軟禁されていた二人が無事に生還したという感動的な場面のはずなのに、高田が口にした“ミッチー先輩”という呼び方が妙に間抜けで、しかも黒マッチョのゴツいオヤジ顔に全然似合っていない。

 雪矢は何とか込み上げてくる笑いを堪えたが、良二は完全にツボにハマッたらしく、佐竹の背後からぶふっと豪快に噴き出した声が聞こえてきた。

「――おう、佐竹」
「久しぶりだな」

 久々に再会した親友という割に、二人の間に流れる空気がぎこちないのは、やはり過去に何かがあったからなのだろう。

「いつまでもここに立っていても邪魔になるだけだ。とりあえず車に乗れ。事情は後で聞く」
「あ、社長。俺、車回してきます!」

 フットワークの軽い良二があっという間に走り去ってしまった後で。
 何かを言いたげな高田の視線に気付いた雪矢は佐竹の腕から逃れようとモゾモゾもがいたが、逞しい腕は雪矢の身体を抱いたまま決して離そうとはしなかった。



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