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○●○


 明るさを落とした間接照明によって、薄暗さの中に柔らかな温もりが感じられる広い寝室。

 最初に訪れたときには、洗練された大人の雰囲気が漂う空間をゆっくり見回す余裕もなかった雪矢だが……。
 二度目の訪問となる今もやはり余裕などなく、高価な調度品に目を向けることもできずにベッドの上に正座し、バスローブ姿で置物のように固まっていた。

「佐竹さん……」
「何だ」

 シャワーを浴びたばかりの雪矢の身体は上気して、色白の肌がほんのり赤く染まっている。

 熱に潤んだ大きな目は、全裸のまま目の前で堂々と構える男の股間に向けられていた。



 食欲がないという言葉が聞き入れられず、ほぼ無理矢理のように夕飯を食べさせられた雪矢は、その後佐竹に命じられるままにシャワーを浴びて寝室に戻り、入れ違いで浴室に向かった佐竹が戻ってくるのを待っていた。

 今夜こそ本当に尻を掘られてしまうのかと、恐怖と羞恥で小さく震える身体を抱えながらも、自分の身体一つで店を守れるなら安いものだと言い聞かせて覚悟を決めていた雪矢に対して、シャワーを浴びて戻ってきた佐竹は予想外の行動に出たのだった。

 何と、寝室に戻るなり腰に巻いていたタオルを外して床に投げ捨て、ベッドに腰を下ろして雪矢に股間のブツを見せ付けるように足を広げて、低く一言囁いたのだ。

「舐めろ」
「えっ!」

 何を、と聞き返すことなど、出来るはずもない。
 当然この前のように、佐竹に一方的にヤラれて掘られるのだろうと思って身構えていた雪矢にとって、これは完全に予想外の展開だった。



「いつまで見ているつもりだ」
「っ、ごめんなさい」

 自分が何を要求されているのかも忘れて、茂みの中で存在感を放つ逞しい雄の象徴を凝視していた雪矢に、佐竹がからかうように声をかける。

 佐竹のペニスはまだ反応していない状態にも関わらず十分過ぎるほどの大きさで、雪矢のソレと同じ器官とは思えないほど黒ずんだグロテスクな様相が、持ち主の経験の豊富さを物語っていた。

 厚い筋肉に覆われて盛り上がった胸も、無駄なく綺麗に引き締まった腹も。佐竹の身体のすべてが濃厚な雄のフェロモンを放って、雪矢を圧倒する。

「俺はそんなに気の長い人間じゃねえんだ、早くしろ」

 急かすような言葉に苛立ちの色はなく、雪矢の反応を楽しんでいるような響きが感じられた。

 もちろん、黙って身体を預けるだけでは百万円の利子代わりにならないだろうということは雪矢にも分かっていた。
 それでも、自分から積極的に男のモノを舐めろと言われて出来るかというと話は別である。

 他人のそんな部分に触れるだけでも雪矢にとってはハードルが高いのに、いきなりそんなことを要求されても、すぐには身体が動かない。

「どうしても舐めなきゃ駄目ですか、ソレ……」

 ずっしりと重量感のある佐竹のペニスに視線を向けながら、恐る恐る尋ねると、佐竹の顔が不満げにしかめられた。

「汚えモンみてえに言うな。シャワーを浴びたばかりだぞ、ちゃんと洗ってある」
「洗ってあるとかないとかの問題じゃないんですけど」
「お前だってしてもらったことくらいあるだろうが」
「ありません!」

 自慢できることでもないが、雪矢には女性経験と言えるような経験はほとんどない。
 まったくない……という訳ではないが、佐竹と比べれば“ない”と言っていい程度のものである。

 異性相手にも経験したことのない行為を、しかも自分が舐める側で“やれ”と言われて、雪矢の目には羞恥と戸惑いの涙が溢れていた。



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