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○●○
「……っ、んッ!」
照明の光を落とした薄暗いベッドルームで。
雪矢は、こぼれ落ちそうになる声を必死に殺して、野獣の補食に堪えていた。
今さらながら、自分の認識が甘かったことを痛感せずにはいられない。
男同士の行為というものを知識としては漠然と理解できていたが、そういった趣味のない雪矢にとって、無理矢理身体を触られることは暴力とそう大差のないものとして認識されていた。
どこを触られても何とも思わないし、尻にモノを挿れられれば痛いだろうが、殴られたり蹴られたりするのと同じことだ、と。
それで大切なあの店を守ることが出来るなら、ただ黙って、辛い時間をやり過ごせばいいと考えていたのだ。
――それなのに。
「やッ!……ああっ、あッ」
さっきからどんなに堪えようとしても堪えきれず、口からは甘い声がこぼれ、身体が素直に反応を示してしまう。
「お前はこんなトコロも感じるんだな」
無理矢理乱暴な行為に及ぶものだと思いきや、佐竹は意外なほど丁寧な前戯でじっくりと時間をかけて雪矢の身体を溶かし、その過程を楽しんでいた。
ただでさえ恥ずかしくて消えてしまいたいくらいなのに、服を脱がされて貧弱な裸体をさらけ出しているのは自分だけで、佐竹の方はシャツのボタンをいくつか外しただけという露出の差も、より一層雪矢をいたたまれない気持ちにさせる。
「声を我慢するな」
真っ白な肌に舌を滑らせ、赤く色づいた小さな突起を舌先で弄びながら囁く、欲情に掠れたバリトンに、雪矢の細い身体がピクンッと跳ね上がった。
「っ、だって、隣には……!」
「伍代ならこんなことはいちいち気にしちゃいねえよ。何だったらこっちに呼んで、お前の可愛い姿を見せつけてやろうか」
「――変態!」
寝室と壁一枚隔てたリビングには伍代が控えているというのに、部下に生々しい音を聞かれて恥ずかしいとも思わないのか、佐竹は唾液に濡れた乳首に軽く歯を立て、雪矢に一際高い声をあげさせた。
「やぁ、あッ! 噛まないで、下さいっ」
「そんなに乳首が感じるのか」
「違います……、あぁ、ンッ、あッ!」
「違わねえだろ。触ってねえのに、こっちはビンビンに勃って濡れてるじゃねえか」
「んんっ!」
からかうような佐竹の視線の先には、乳首への執拗な愛撫だけで勃ち上がり、薄ピンク色の先端にぷっくりと蜜を溢れさせた雪矢の雄の器官が震えている。
男に身体を触られたところで感じるはずがないと思っていたのに、直接触れられる前からそんな反応を示してしまう自分の身体がとんでもなく淫乱に思えて、雪矢は堪らずその部分から目をそらした。
「エロい身体だな。どこも甘くて……俺を誘ってやがる」
「いッ、やあぁン、あっ、んんッ!」
腰や足、そして尻を撫でてその触り心地を楽しんでいた大きな手が、雪矢の小振りなペニスを包み込んで、硬く張り詰めた竿をゆるゆると上下に扱き始める。
「や、駄目……ッ、佐竹さん、やだぁ……!」
「本当は触って欲しくて堪らねえって顔だぞ」
「んんッ、やッ、ん!」
嫌だ、と言いながらも、細い腰はビクビクと跳ね上がり、勃起したモノの先からはいやらしい蜜が引っ切りなしに溢れ出す。
汁に濡れた佐竹の手が上下に動くたびにクチュクチュと卑猥な水音が響いて、雪矢にその恥態を自覚させた。
「はぁ、あンッ、んっ」
「気持ちいいんだろう?」
「……ッ、やっ、やだ……っ!」
「素直じゃねえな。お前の可愛いペニスはこんなに喜んでるのに」
「あぁあんッ!」
男の手で扱かれて感じているなんて、認めたくない。
いっそ無理矢理にでも突っ込んで、この行為をすぐに終わらせて欲しいのに、佐竹は雪矢を感じさせることを楽しんでいるらしく、自分の欲望を優先させる気配はいっこうに感じられなかった。
「――早く」
「ああ?」
「早く……挿れれば、いいじゃないですか。もしかして、勃たないんですか」
「!」
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