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佐竹と伍代ならありえない話ではないと思ったが、どうやらそこまではしていないらしい。
本気で安心した様子の雪矢を見て、良二は微妙な表情で呟いた。
「ユキヤさんって顔に似合わず結構過激っすね」
「そこがユキヤちゃんのチャームポイントなのよ〜。可愛い顔してっていう意外性がね」
「顔のことは言わないで下さいよ」
本人は特に意識していないが、雪矢は外見とのギャップをよく指摘される。
決して女顔という訳ではないものの、色白で線の細い顔立ちと華奢な体型から、内気で大人しい性格だと思われがちなのだ。
実際には昔から負けん気が強く、年頃になってもなかなか周りの友人達のように逞しく男らしい身体つきにならないことを気にしてジムに通い、黙々と筋トレに励んでいたこともあるのだが。
結局、無計画な筋トレは雪矢の細い身体を更に引き締めただけで、思い描くようなゴツゴツの筋肉質体型になることはなかった。
今思い出しても悲しい過去である。
「で、で? ホスト崩れとヤンチャな仲間達はその後どうなったの?」
細い目を輝かせて佐竹の武勇伝の続きをねだる高田に、良二はジョッキの中の氷をカラカラとストローで掻き混ぜながら肩を竦めた。
「あっという間に全員のしちまった後で、社長の仕事繋がりっていうおっかねぇオッサン達が乗り込んできて、そいつらの車から何から、金目のモン全部持ってっちまったんスよ。着てる服まで剥いで」
「さすが、情け容赦ないわね」
「んで、それでも足りない分は身体で払えって……ヒカルさん、今日からそっち系のヤバい兄貴が経営するクラブで働かされるみたいっす」
「んまー! 何のクラブなのかしら、興味深いわ!」
そっち系のヤバい兄貴、というのがどっち系でどうヤバいのかは敢えて聞かないことにするが、足りない分を労働力で返還させるというのは雪矢としては佐竹なりの優しさなのではないかという気がした。
雪矢が以前何気なく見たVシネマでは、ヤクザもどきの高利貸がもっと悪どい方法で金を回収していた記憶がある。
「そのホストさん、腎臓を売り飛ばされたりしなくてよかったね」
「その顔でそんなえげつないこと言わないで下さいよ〜!」
良二は涙目になって懇願するが、顔も性格も今さら変えようがない。
空になったグラスにお冷やを注ぎ足して、雪矢は大型犬のような元ホストに問いかけた。
「借金が帳消しになったってことは、これでリョウ君も自由の身になったんだよね。これからどうするの?」
金が返ってきた後は好きにしていいと、佐竹はあの時確かにそう言っていた。
ホスト仲間からの取り立てが成功したからには、やはり元の店に戻るのだろうか。
そう思って聞くと、良二はお冷やのグラスを手にしたまま照れ臭そうに笑って口を開いた。
「それが……社長に頼んで、これからも今の仕事を続けさせてもらうことにしたんスよ」
「えっ! それでいいの!?」
「んー、最初はすぐに辞めてやるって思ってたんスけど、あのオッサン達も見た目ほど悪い人達じゃねぇし。俺にはこの仕事、ホストより向いてるみたいなんで」
「そっか……」
佐竹と伍代が何だかんだいいながらもそれなりに良二を可愛がっているのは雪矢も分かっていたので、これからも良二が佐竹の下で働き続けると聞いて、少しホッとした気持ちになる。
ドロドロとした派閥争いがあるホスト業はどうにも馴染めなかった、と良二は前に愚痴をこぼしていたので、高利貸の手伝いが良い仕事かどうかはともかく、部下を大切にしてくれる上司の下で働ける環境は悪いものではないだろう。
「ユキヤさんが身体を張って俺を助けてくれたのに、申し訳ないっす」
「ん?」
雪矢が自分のホスト業復活を望んでいたとでも思ったのか、良二はシュン、と肩を落として大きな身体を縮め、上目遣いに雪矢を見つめてきた。
「別に、身体なんて張ってないし……仕事のことはリョウ君が自分で選んだんだから、俺は反対なんてしないよ」
「だって、あの時ユキヤさん、俺のせいで社長に唇を奪われちゃったじゃないスか!」
「っ!」
その言葉にうっかり手を滑らせて落としそうになった皿を、ギリギリのところで受け止めた自分を誉めたい。
カウンター内のキッチンに立つ雪矢の色白の顔は、瞬時に赤く染まって、大きな瞳が熱に潤んだ。
「あれは、多分、佐竹さんなりの気遣いだったんだよ」
「あんなエロいベロチューが何の気遣いだっていうんスか。俺らがいなかったら絶対最後まで食っちまってたっすよ、あのエロオヤジ!」
「だから……その、借金の肩代わりとかのことを俺が気にしなくていいように、帳消しにする口実を作ってくれたっていうか」
「いや、あの時の社長はほとんど本能剥き出しの野獣だったっすよ」
「ユキヤちゃん、もっと警戒心持たなきゃ駄目よ! あの男は絶対ユキヤちゃんの可愛いおケツを狙ってるんだから」
良二と高田に挟まれ、雪矢は俯いて小さくなる。
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