7


「――おい、あれは何だ」

 奥でうなだれている青年を顎で指し、佐竹が尋ねると、柄の悪い集団のリーダー格らしき男が直立不動の姿勢で答えた。

「そこの店のホストっす。ホスト仲間が西城さんのトコから金を借りたまま飛んじまって……その保証人っす」
「なるほどな」

 どうやら、ホストの青年は自分が借りた訳でもない借金を押し付けられて、逃げた仕事仲間の代わりにボコボコに殴られていたらしい。

 いかにもありがちな状況から事情を理解した様子の佐竹は、取り出した煙草をくわえ、チンピラの一人が慌てて火をつけようとするのを片手で制して自分で火をつけ、ゆったりと煙を吐き出した。

「顔で稼ぐ男に怪我をさせるのはマズいだろう」
「す、すんません。金がねぇって開き直るもんで、つい」
「殴っても蹴っても、ない金は出てこねぇよ。頭を使え」
「はいっ」

 決して怒鳴る訳ではなく、静かに語っているだけなのに、佐竹の声には不思議な迫力がある。
 ふっとチンピラの顔に煙を吹きかけ、極道顔の金貸しは「いくらだ」と不機嫌そうに呟いた。

「はっ?」
「西城はアイツのホスト仲間にいくら貸している」
「あ、ええと……ご、五百っす」
「利子も込みか」
「はい!」

 五百円の借金が返せなくてチンピラにボコられるホストはいないはずなので、五百というのは五百万円のことなのだろう。
 一般庶民雪矢の感覚ではかなり大きな借金という印象だったが、佐竹にとってはそれほど大きな額ではないのか、その金額を聞いても雪矢の目の前に立つ男の背中に反応はなかった。

「ホストのくせにそのくらいの金も稼げねぇのか、情けねぇ野郎だな」

 すべてのホストが売れっ子で、簡単に何百万円という金を稼げる訳ではないだろうに。金貸しを本職としている男にとっては、五百万円という金額は“そのくらいの金”になるらしい。

 ふん、と面白くなさそうに鼻を鳴らして、佐竹はくわえていた煙草を胸ポケットから取り出した携帯灰皿の中に投げ入れた。

「伍代」
「はい」

 意外にしっかりと喫煙マナーを守る人なんだ……などと、雪矢が感心している間に。
 佐竹に呼ばれた伍代が手にしていたゴツいジュラルミンケースを軽々と持ち上げ、佐竹の前でそれを開いた。

「うわ……!」

 大きなケースいっぱいに詰まっていたのは、金、金、金。

 商売道具とは聞いていたが、ぎっしりと詰め込まれた札束に、雪矢は思わず目を見張る。
 平凡な人生を送るカフェスタッフには、これだけ大量の現金を見る機会はなかなかないだろう。

「おおっ!」
「す、すげえ……」
「すげー!」

 素直に感心して札束に見入るチンピラ集団の前で、佐竹はその中から掴み出した束を数え、手前にいた一人の手にそれを押し付けた。

「え、え?」
「五百だ。あの男は俺が買う」
「マジっすか!?」



(*)prev next(#)
back(0)


(12/94)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -