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「大島さん、何か知ってるならケチケチしないで教えて下さいよ」
「だから、俺は何も知らねえって」
「俺、先輩なのに新堂にはいっつも迷惑かけて世話になってばっかだし……クリスマスとか関係なしに、アイツが何か欲しがってるならプレゼントしたいっす」

 毎晩のように隣部屋に押し掛け、自分の家のようにまったりくつろぐ俺を、何だかんだと文句を言いながらも結局は甘やかしてくれる可愛い後輩。
 本格的に怒らせてしまったかもしれない、出入り禁止を言い渡す時の顔を思い出し、何故か胸の奥がギュッと締め付けられたように苦しくなった。

 嫌われたくない。
 困らせたいワケじゃないのに、アイツの前では要領よく振る舞えず、ため息ばかりつかせている気がする。

「あのな、新堂だってもう一人前……とは言わねえが、しっかり社会人やって自分で稼いでるんだぞ」

 せっせと剥いた枝豆を口に運んで、大島さんが呆れた顔で俺を見つめる。

 どうせ、俺が過保護だとか新堂に甘すぎだとか、そういう事を言いたいんだろう。
 そんな事は言われなくても分かっているし、それに実際のトコロ、新堂を甘やかして可愛がっているように見えて、甘やかされているのは俺の方なんだと思う。

「金で買えるモノなら人に買ってもらうより自分で買う方が嬉しいってタイプだろ、アイツは」
「まあ、多分そうっすね」

 枝豆好きの先輩に言われてよく考えてみれば確かにその通りで、俺はビールを飲むのも忘れて、ジョッキを持ったままじっと考え込んでしまった。

 確かに。俺も社会人になったばかりの新人時代は、少ない給料を上手くやりくりしてたまに自分へのご褒美を買う事を喜んでいた。
 自分が働いて稼いだ金で、好きなモノを買える事が嬉しかった。

 新堂も、たまに俺が食材を差し入れして贅沢な晩飯をねだる時以外は基本的に質素な一人暮らしを楽しんでいるようだし、給料日前のキツい時期にも何かをおねだりされたような記憶はない。

「じゃあ……アイツの欲しいモノって」

 一体、何なんだろう。

 ぽつり、と呟いた俺の肩を叩き、枝豆好きの先輩はヒントとも何とも言えない言葉をくれた。

「しかしまあ、クリスマスプレゼントにおねだりなんて……アイツも意外にロマンチストだったんだな」
「ロマンチスト!?」

 一瞬近付きかけていたような気がした答えが、その一言で遙かに遠ざかってしまう。

 何だ。
 アイツはそんなロマンチックなプレゼントを俺に求めているのか。
 しかも、自分では金を出して買うことも出来ないような恥ずかしいまでにロマンチックなモノを……。

「俺にとっちゃお前も新人時代から可愛がってきた大切な後輩だし、新堂は可愛い部下だからな」
「はあ」
「結果がどんな事になってもとりあえず応援はしてやるが、いい加減な気持ちでウチの可愛い新人君を泣かすような真似をしたらタダじゃ済まないって事を覚えとけ」

 中途半端に酒の回った頭で、半分は新堂の事を考えながら何となく聞いていた大島さんの言葉の、最後の部分だけが気になって、恐る恐る訊いてみる。

「タダじゃ済まないって、具体的にはどういう事になるんすか」

 入社したばかりの頃から鬼の指導係として俺をシゴき上げてくれた先輩は、眼鏡の奥の瞳をスッと細めて久しぶりに背筋が凍り付くような笑顔で穏やかに恐ろしい脅し文句を口にした。

「経理関係の決済書類を溜めまくって年度末に一気に回す」


 何で俺がこんな恐ろしい目に合わなきゃならないのかは分からないが、絶対に、今回のクリスマスプレゼントを選び間違ってはいけない。


 それでも、空気の読めない俺の頭は大島さんの脅し文句より新堂の事でいっぱいで。
 どんなに考えても、ロマンチックなプレゼントらしきモノは何も浮かんではくれなかったのだった。



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