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「あの、コレ! チンコに合うかわかりませんがっ」
「ちんこ……?」
「せめてもの感謝の気持ちですので受け取って下さい!」

 営業マンは、押しが肝心。

 グイグイ押し付けたソレを広げてみた男の鋭い目が、一瞬大きくなって、数回瞬いた。

「何だ、コレは」
「通販限定お申し込み特典・ふわふわウサギちんキャップっスよ!」
「ちんキャップ……」
「男のオシャレは下半身から! 大切な夜のお供に是非使って下さいっ」

 本当は、今夜主任と楽しもうと思って持ってきていたモノだけど。この人にだったらあげてもいい。
 そんな思いで差し出したウサギちんキャップを呆然と眺めていた男が何かを言いかけた時、応接室のドアが開いて、今一番会いたかった人の声が聞こえた。

「松崎!」
「しゅにーんっ!」
「なかなか帰ってこないから心配したぞ」
「ごめんなさい! 道に迷っていたっス」
「主任……って、今日来る予定だった会社の……。まさか、社会人だったのか」

 やっぱり俺を高校生だと思っていたんだ……。
 表情は変えないまま静かに驚いている命の恩人を視線で指して、「あの人に助けてもらったっス」というと、礼を言うために顔を向けた主任の笑顔が、ある一点を凝視したまま固まってしまった。

「部下が大変なご迷惑を……というか、その……手にされているソレは……」
「イヤ、コレは……」
「……」
「……」

 二人の間に流れる微妙な沈黙。

「部下が大変なご迷惑をおかけしました」
「いえ、とんでもない」

 仲山主任は、何故か二回同じ言葉を繰り返してミスター・男前に頭を下げた。



「松崎、ああいうモノを簡単に他人に渡すな」
「や、やっぱり主任、今夜はウサギちんキャップで抜きっこするのを楽しみにしてたっスね!」
「……」

 ――結局、星條学園を離れるまで主任は固まった笑顔のままで。

 この夜、いつも以上に激しいお仕置きプレイが待っている事を何となく察知しつつも、しがない新人サラリーマンの俺に逃げる術はなかったのだった。



end.

(2009.8.10)




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