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ウチの会社の女性陣に聞かれたりしたら給湯室で全裸に剥かれて半殺しにされても仕方ないような事を言っておきながら、本人的には酷い発言をしている自覚が全くないんだからどうしようもない。
「っていうか、それのどこが恋なんですか」
ただヤリ疲れたというだけの話のどこに恋愛要素があるのか。
ツッコミを入れた俺に、ヤリチン帝王は細い目を少し大きくして驚いた顔を向けてきた。
「何が?」
「ヤる気にならないって事が、恋に疲れたって事になるんですか」
「そういう事だろ」
「……えー」
このよく分からない飛島理論。
元からあの要領のいい遊び人っぷりは俺の理解を超えていたけど、……まさか。
今俺は、恐ろしい事実に気付いてしまったかもしれなかった。
もしかして、飛島さん的には今までお持ち帰りしていた彼女達と恋愛をしていたつもりだったのだろうか。
だとしたら、そもそも恋というもの自体を激しく勘違いしてしまっているんじゃないのか?
「ちなみに飛島さん、一人の女の子の事が気になってつい目で追っちゃったりとか、一日中その子の事が気になってモヤモヤしたりとかした経験ってあります?」
恐る恐る訊いてみると、飛島さんはあっさり予想通りの答えをくれた。
「ねぇよ。そんなに気になる前にヤるだろ、フツー」
「……あー、やっぱり」
マトモな初恋もまだかよこの人!
「ヤリたい」と思って、上手くベッドに誘うまでの駆け引きが恋だと本気で思い込んでいる。
目の前の先輩が今までどんな女性遍歴を歩んできたのか、容易に想像がついてしまった。
本人は恋をしているつもりでムラムラと無自覚にオスのフェロモンを振りまいて。それを嗅ぎ分ける事の出来る百戦錬磨の手慣れた相手に味見されたり、味見したりを繰り返しているうちに、身体だけは無駄に経験豊富になってしまったと……。
「何か、俺も疲れてきました」
とてもじゃないけど、今からこの先輩に恋愛の何たるかを語って聞かせる元気はない。
「若いくせにだらしねー奴だな」
「誰のせいだと思ってるんですか」
他人事のように呆れる飛島さんを見て、更に疲労の波が押し寄せてきた。
ずっとスポーツや遊び感覚のセックスしかしていなければ、疲れたと感じても無理はないのかもしれない。
毎回あれだけ頑張っていれば、飽きるのが早くても仕方ないだろうし。
それにしても。
「じゃあ、アレですか。恋することに疲れたってのはつまり……」
チラッと飛島さんの股間に視線をやって。俺は思わず、その一言を口にしてしまった。
「チンコが勃たなくなったってコトっすか」
「っ!」
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