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通常、射精後は倦怠感に包まれるものだが、今日ほどぐったりした事はない。
「……何でこんな事したんだよ」
甲斐がいしく俺が放ったモノの後始末をする元同級生を睨んで訊いてみると、答えの代わりに中途半端なキスが返ってきた。
「やめろ、馬鹿」
高校卒業後全く連絡を取っていなかったとはいえ、友達だと思っていた男にイカされたのだ。
しかも、自分で自分の乳首を弄りながらという超恥ずかしいオマケ付きで。
人生始まって以来の大ショックだ。
女じゃあるまいし、キスでごまかされたりするワケがない。
「鹿島が可愛いから、我慢できなくなった」
「……は?」
さっきまで俺のモノを触りまくっていたその手で頭を撫でられて、耳元で囁かれた言葉に、思考能力が追い付かなかった。
「あの時のキスだけで諦めたつもりだった俺の前に、間抜けな理由で運ばれて来やがって」
「何言って…」
「あの頃と全然変わらないお前に俺が動揺してるのに、人の気も知らないでおっぱいおっぱい騒ぐから、つい悪戯したくなるだろうが」
「…星住?」
その言い方だと、まるで星住が高校生の時から俺を好きだったみたいに聞こえる。
もしかして。
悪ふざけで奪われたと思っていたファーストキスには、そんな意味があったのか?
「昔から、お前は鈍かったよな」
呆然とする俺の前で、星住は不機嫌そうに短くため息をつき、指先で眼鏡の細いフレームをクッと上げた。
「あ、あの、俺の好みの子に手を出してたのって…」
「女に盗られるのが嫌だからに決まっているだろ。お前が惚れっぽかったせいで、すっかり俺がヤリチン扱いだ」
「俺のせいかよ!?」
知らなかった。
星住が、俺をそんな風に見ていたなんて。
『もし』なんて仮定する事には何の意味もないけど。
あの時の俺が星住の気持ちを知っていたら、キスされてもあんなに怒ったりはしなかった……かもしれないし、やっぱり、何の予告もなくしてきた事には怒ったかもしれない。
でも、きっと、嫌ではなかったはずだ。
今だって、星住の手で感じて、俺を見つめる星住の目に煽られてイッたんだから。
「鹿島」
「…うん?」
「さっきの、本気で嫌ではなかっただろう」
「……」
さっき外したパジャマのボタンを丁寧にとめて、白衣の男が口元に悪そうな笑みを浮かべる。
「入院中、お前の下半身の健康管理は俺が引き受けた」
「えぇっ!」
医者って、そんな事までしてくれるのか。
というか、見るからに何か企んでいそうなその顔は一体。
「退院まで時間はたっぷりある。俺の手でしかイケない身体にしてやろう」
「ひぃぃっ!」
「今度はもう、諦めないから。俺から逃げられると思うなよ」
調教マスターのようなセリフと、鬼畜っぷりを含んだ笑顔。
コイツは俺の身体をどうするつもりなんだ……。
100万回ものすごいテクでイカされるより、一度でも好きだと囁いてくれた方が、効果があるかもしれないのに。
自信たっぷりの態度がムカつくから、それは教えないでおこう。
退院するまでに気付いてくれたら、俺も少しは前向きに考えてやってもいい。
というか、イカされ過ぎて俺の身体がおかしくなる前に気付いてくれ。
頼むよ、先生!
end.
(2009.6.20)
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