抜き友宣言。1
授業が終わって寮に帰ろうと校舎を出たところで、信じられないモノを見てしまった。
「――兄貴っ!?」
どこで入手したのか、ウチの学校の制服をちゃっかり身につけて、変装のつもりらしい変な黒ブチ眼鏡をかけた兄貴が、何故か違和感なく生徒たちに交じってそこに立っていた。
「あっ。渉!…き…来ちゃった」
てへっ、と可愛いこぶりっ子して照れたように笑う兄貴。
「“来ちゃった”じゃねぇだろうが!!会社はどうしたんだ、まさかクビとか言わないよな!?つーか何ウチの制服とか着てんだよっ。どーしたんだソレ!?」
恐ろしいことに、今年社会人一年目の兄貴は、制服を見事に着こなしてしまっていた。
就活の時から妙に似合わなかった、着られてる風のスーツなんかより断然似合っている。
少なくとも、実際の年齢より上に見られる事の多い俺よりよっぽど高校生らしく見えていた。
「何だよ、そんなマジになって怒んなよー。会社は年休だ、年休!一年目でも、取得しないと組合がうるせーんだ」
せっかく取得した年休使ってこんな所に来るなんて…。アンタ一体何考えてるんだ。
「せ…制服は…?」
「今って何でもネットで手に入るんだな!男子校の制服とか、相当マニアなモノまで売っててびっくり」
そのマニアなモノをわざわざ高い金払って買った兄貴の方が俺にはびっくりだ。
初任給では暮らしも楽じゃないだろうに。
「な、せっかくだから寮とか案内しろよ。お前の生活環境を厳し〜くチェックしてやる」
「や。別にチェックしてくれなくていいし…」
「同室者に変なボディ・コミュニケーションを無理強いされてないか?共用風呂とか、ちゃんと安全に入浴できてるか?チンコ洗いっこさせられたりしてないか?」
「してねーよ!!帰れっ!」
兄貴のヤツ。
マジで男子校を何だと思ってやがるんだ!
未練がましく残りたがる兄貴を無理矢理追い返そうとしているところで、同室者の井上に声をかけられた。
「おっ!もしかしてソレ…噂の兄ちゃんか、松崎!」
…しまった。
井上には前に兄貴と一緒に写った写真を見られていたのを思い出す。
「ん?渉の友達?」
「どうも!渉君の抜き友、井上です。渉君とは同室でお世話になってます」
「げっ!…お前っ、何言ってんだよ!」
抜き友って何だ!?気持ち悪い!
ハッと兄貴の顔を見ると、元から大きい目が限界まで見開かれ、何だか間の抜けた表情のまま、完全に動かなくなってしまっていた。
「渉の…抜き友…?」
「違うっ!信じるなよ兄貴!つーか井上っふざけんなテメー!」
「いやぁ、弟さん、なかなか立派なモノをお持ちですねー。僕なんてたいしたアレじゃないから、毎回渉君が羨ましくて…」
「死ねっ」
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