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「お待たせいたしました」
松崎の声とほぼ同時に、スッと目の前にグラスが置かれる。
カウンターの中に目をやると大和君の後ろに、ゲーム機を手にした少年が立っていた。
「息子の毅です。…毅、仲山さんと松崎君にご挨拶は?」
「む、息子!?崇さんのジュニアっスか?」
「…何か多少意味が違って聞こえるけど、うん、そうだよ」
「へぇーっ、へぇーっ!」
松崎の視線はもうその少年に釘づけ状態で、それはさすがに失礼だろうと思う程ガン見してしまっている。
「毅です。いつも父がお世話になってます」
きちんと礼儀を教えられているらしく、小学生にしては大人を相手に全く物おじしない少年。
なるほど。崇さんの面影が見えなくはないが、目元が少しきつい印象だ。
「仲山です。こっちが部下の松崎。こちらこそ君のお父さんにはいつもお世話になっているよ」
簡単な自己紹介を済ませた後、毅君は手に持っていたゲーム機を大和君に見せ、口を尖らせた。
「ねー、充電器なかったよ」
ああ、やっぱり小学生なんだな。大人びた挨拶から一転して子供の表情になった毅君に思わず笑みが零れ、崇さんを見ると、父親の顔をして苦笑していた。
「ごめんね、家に置いてきちゃったみたいだ」
「新しいゲーム、大和君にみせたかったのにな」
ぷぅっと頬を膨らませる毅君の手元を、ググッと身を乗り出して松崎が覗き込む。
…イヤ、危ねぇだろお前。
「あのっ!そのゲーム機、持ってるっスよ今!奇遇にもっ」
「えっ本当?」
「充電もバッチリっス!」
ぱぁっと顔が輝いた毅君の前に、ハイッと元気よく差し出されるゲーム機。
松崎のヤツ、会社にこんな物を持って来ていたとは…。
「ありがと、お兄ちゃん」
にっこり笑った毅君の顔は、崇さんにそっくりで、今まで全く考えた事のなかった“子供”というモノの存在を、この時初めて意識してしまった。
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