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都会の片隅にひっそり構えたその店の扉を開ける。
ゆったり耳に流れ込んでくる心地よいジャズの音色と、あちこちの席で交わされる常連客達の会話や笑い声。

BAR雑草。

ここは一日の疲れを忘れてくつろげる俺のちょっとした隠れ家……のはずだったのだが。


「あーっ!崇さんが来てる!主任、ホラ、崇さんっスよ」
「…松崎…この店に来た時くらい静かにできねぇのか、お前は」

松崎をここに連れてくるようになってからは、ひっそりした隠れ家的空間の色合いを急速に失いつつあった。

「崇さん、今日もカッコイイっスね!」
「ありがとう。松崎君は今日も可愛いね」
「そんな!BAR雑草のマスコット的存在だなんて!恥じらうっス」
「…うん、そこまでは言ってなかったんだけど」

珍しく俺達より早く来ている常連の崇さんに軽く会釈し、迷わずその隣に腰を下ろした松崎に釣られてカウンター席に腰掛ける。

「悪いな、いつもうるさい部下で」

苦笑しながらそう謝ると、まだ若いながらも店のマスターを勤める大和君は柔らかな笑みを浮かべて首を振ってくれた。

「松崎さんがいらっしゃるとお店の雰囲気が和むので大歓迎ですよ」
「そう言ってもらえるとありがたい。…あ、いつものを頼む」
「俺も、いつものをお願いするっス!」

…お前はまだ数えるほどしかこの店に来てないだろうが。
声に出してツッコミたいところを何とか堪え、賑やかな新人をチラリと睨みつける。が、さすがは名バーテンダー。

「かしこまりました」

何度かしか注文していない松崎の“いつもの”をちゃんと覚えているらしく、静かに頷いて二人分の“いつもの”を作り始めてくれた。

「崇さん、今日は早かったんですね」

大和君がカクテルを作っている間、松崎は魔法のようなその手捌きに夢中になって大人しい。
その隙に崇さんに挨拶をすると、思いもかけない言葉が返ってきた。

「ああ、今日は息子を連れて来ていて…」

…息子!?

空耳ではないかと思い、聞き返そうとした瞬間、崇さんと俺との間に挟まれていた松崎が急に大きな声を出した。

「あ!ちび崇さん!」





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