3
こいつといる時にいつも感じる、この落ち着かなさが苦手なんだ。
「つーか! ラヴェンナ寄進って、あれは何のつもりだ。そんな事まで頼んだ覚えはねぇぞ」
胸の奥底で燻ったもどかしい気持ちを突き放すように、俺はわざと強い口調でそう言ってピピンを睨み付けた。
しかし、英雄の血を引く気高い男は敵意剥き出しの視線に怯む事もない。
スッ…と優雅な動作で両足を寝台の上に乗せたピピンがゆっくりと身体をこちらに寄せてきた瞬間、本能は素早く身の危険を察知して警鐘を鳴らし始めた。
「おいっ!」
当然予想される危険を回避すべくズリズリと後退するが、それより早く退路を断たれ、あっという間に身体は戦場帰りの若い王の下に組み敷かれてしまう。
「ラヴェンナか。……そうだな……私からお前に、何か形に残る物を贈りたかった。それだけだ」
言いながらも、骨張った長い指が衣服を捲り上げ、何やら怪しげな動きを始めようとする。
「止めろ! 土地ひとつ貰ったくらいで俺がそんな不埒な行為を許すと思ったか!」
「何だ、ラヴェンナだけでは不満か」
「アホか! ラヴェンナも別にいらねぇよ! この手を離せっつーの」
ジタバタと暴れてみたところで、屈強な肉体をもつこの男に抵抗など出来るはずもない。
ピピンは明らかに俺が必死になってもがいている様子を見て楽しんでいた。
「ステファヌス…お前は本当にガラの悪い教皇だな。お前のような聖職者を私は他に見た事がない」
「別になりたくて教皇になったワケじゃねぇよ!」
ランゴバルドの強大化に加えて、激化してきたビザンツ帝国との確執。
面倒続きで誰の目から見ても苦労する事が明らかな貧乏くじを、頭の固いジジィどもに無理矢理引かされただけの話だ。
「今すぐこの手を離して俺の上からどけ!人を呼ぶぞ」
とにかく今は何とかしてこの危機的状況から脱出しなければ。
精一杯凄んで脅してみせたつもりだったのに、俺を見下ろす男は僅かに口の端を上げただけで一向に身体を退ける気配はなかった。
「呼びたければ呼ぶがいい。自分の淫らな姿を側近に見られながらするのが好きだったとは……なかなかいい趣味を持っている」
「だっ、黙れ! 変態国王! 大体、戦から帰って来て真っ先にヤる事がこれかよ」
「生きて帰ったら必ず、お前をこの腕に抱こうと決めていた」
「勝手に決めるなっての!」
何を言っても全く聞く気のない、傲慢な男。
いつの間にか身につけていた衣服は乱れ、露になった肌が柔らかな月明かりの下に晒されていた。
(*)prev next(#)
back(0)