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○●○


夜風が頬にあたって、目が覚めた。

部屋には月明かりが差し込んでいる。
窓を開けて寝た覚えはないのに……。
不審な気配を感じて、俺は恐る恐る声を出した。

「誰だ」

声に応じて闇の中から現れた長い影が、月明かりに照らされて窓際にくっきりした輪郭を形作る。

「相変わらずここは周辺警護が甘い。夜間の見張りをもっと増やせと以前言ったはずだろう」

自分で忍び込んでおきながら、偉そうに説教をたれる懐かしい声。
夢を見ているのかもしれないとぼんやり影を見つめるが、闇に慣れた目に入ってきたのはやはりしばらくぶりに見る男の顔だった。

「ピピン……?」
「久しいな、ステファヌス。変わりはないか」

こんな深夜に人の部屋に忍び込み、遠慮というモノが全くないのか、ピピンはいつもの不敵な笑みを浮かべて寝台に近付いてきた。

「な、何で……。書簡が届いたのは今日の話だぞ」

少なくともピピンのローマ入りまではあと数日はかかると思っていたのに。

「お前のためにわざわざ早馬で駆けて来てやったんだ。もっと嬉しそうな顔をしたらどうだ」
「……」

何でお前が早馬で駆けて来る事が俺のためになるというんだ。
それにこんな夜遅くに押しかけられて、嬉しそうな顔も何もない。
いつでも自己中心的なこの若き国王に、俺は呆れるしかなかった。

「お前……ヒトの迷惑って考えた事あるか?」
「ヒトの迷惑?……ないな。そんな事は周りの人間が考えればいい。一国の王が考える事ではない」
「イヤ、考えろよ! 今どんだけ夜更けだと思ってるんだ! 俺が寝てるとか思わねぇのかよ!?」

むしろ一国の王こそ礼儀というモノをわきまえるべきである。
寝起きにも関わらず頭に血が上った俺を鼻で笑い、ピピンは図々しくも寝台の端に腰を下ろしてきた。

月明かりに照らされた精悍な顔立ちが、以前より少し痩せて見える。
この男は、長く厳しい戦いを生き抜いて、真っ先にここまで馬を走らせてきたのだろうか。
そう思うと、何とも言えない不思議な感覚が沸き上がってきて、俺の胸を締め付けた。




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