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これでやっと落ち着ける。
そう思えたのは、本当に一瞬だけだった。

「おい……! お前、また……」

欲望を吐き出して硬さを失ったはずのピピンが、中で再び力を取り戻して肉壁を押し退けるのを感じ、まさか、と身体を強張らせる。

「やっ……、無理だろ、もう」
「久々の逢瀬で、まさかお前の口からそんな言葉が聞けるとは思わなかった」

ただでさえ敏感になっている内部をえぐられて、ピクピクと小さな震えを繰り返す俺の身体をピピンの唇が擽るように啄んでいく。

「そんな言葉? つーか、抜け!」
「日が昇っても私と共に居たいと、私を愛しているから身体を許すのだと言っただろう」
「言ってねぇよ!……あぁッ」

萎えるどころかますます膨脹したソレは、やがて激しく奥を狙い始めた。
腰を打ち付けられて、何度も軽く昇りつめる。

「もっと私を求めろ、ステファヌス」

月明かりのように優しく、甘く囁きかける声に溺れてしまいそうだ。
鍛えられた逞しい身体にそっと手を伸ばして。
流されてしまわないように、力強く抱きしめた。



結局、獣と化した王が俺を手放してくれたのは空が白みはじめてからのことで……。

「お前は本当にヤるためにココに来たのか。最低だな!」
「散々感じておきながら。今更照れるな、ステファヌス」
「アホか! どーしてくれるんだよ、腰が立たねぇじゃねーか」
「男冥利に尽きる褒め言葉だ」

――朝っぱらからこんなに血圧が上がった事はない。
考えてみれば、こんな関係になる前にもピピンが部屋に忍び込んでは下らない無駄話で俺の貴重な睡眠を邪魔してきた事は何度もあったが、朝が来る前にはいなくなってしまっていたから寂しさが残るばかりで、腹を立てる事もなかった。

夜明けの瑞々しい空気が窓から流れて来る。
外を見ると、町が眠りから覚めようとしていた。

「こうして二人で迎える朝も悪くないな」
「俺はケツが痛くて気分最悪だけどな」
「薬を塗り込んでやろうか」
「自分でやるからいい」
「自分で……。いやらしいな、ステファヌス」
「……」

こんな風に馬鹿馬鹿しい言葉を交わしながら、この男はまた、自分の国へと帰っていくのだろう。
それでいい。

ピピンにはピピンの居るべき場所があって、俺にも成すべき事がある。
ただ、いつかお互いにその職務から解放される時が来れば……。

「ラヴェンナに小さな教会を作ろうと思っている」

乱れた着衣を整えながら、何でもない事のようにピピンが突然口にした。

「信仰心の薄いお前にしてはいい心掛けだな」
「そうだろう。息子が成人したら位を譲って田舎暮らしも悪くないと思ってな」
「何だ、単なる隠居生活用の住居じゃねぇか」
「そこに司祭がいれば、教会だ」

ゆっくりと地平線から現れてきた朝陽に照らされる精悍な顔が、柔らかい笑みを浮かべている。


――話によっては、退位した後、俺が司祭を勤めてやってもいい。

そんな小さな呟きは、近付いてきた薄い唇に吸い込まれていった。



end.

(2008.8.28)





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