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いつもこんな感じで、大竹君に残業してもらおうという話はうやむやになってしまうのだが、そろそろ俺も切羽詰まってきていた。
こんな生活があと一週間でも続いたら、絶対にどこか身体を壊して入院してしまう。

俺は今日こそ引き下がるまいと、目の前に立つ大竹君の腕をガシッと掴んで真面目な顔で彼を見上げた。

「なぁ、頼む。泊まれとまでは言わないけど、本当に何時間かだけでも手伝って欲しいんだ。俺なんかと顔合わせてるのが嫌だっていうんなら、他のフロアにPC接続してもいいから」
「伊坂サン?」
「俺一人じゃ…無理なんだよ。このままじゃ新システムの導入が間に合わなくなるかもしれない。助けて欲しいんだ…」

やばい…。
徹夜気味の生活が続いていたせいですっかり心が脆くなって、大竹君に縋りながら俺はついポロッと涙を零してしまっていた。

さっきまで豪快に笑っていた無礼な部下も、これにはさすがにうろたえる。

「いっ…伊坂サン、イヤその俺、どうしても残業したくないとか言ってるワケじゃなくて…」
「仕事時間が終わってまでこんな染みったれた上司と顔突き合わせるのが嫌なんだろ」
「違うって!」
「そんなに俺が嫌いなら、この仕事が終わった後で人事に異動願を出してやる…っ」

恥ずかしい事に、一度緩んでしまった涙腺をそう簡単に戻す事ができなくて。
隣の席に腰を下ろした大竹君にそっと頭を撫でられながら、俺は気持ちが落ち着くまでずっとボロボロ涙を零し続けてしまったのだった。




「わ…悪かった。なんか最近精神的にヤラれちゃってて…」

外した眼鏡をデスクの上に置いて、差し出されたハンカチで涙を拭く。
みっともないな。イイ年して部下の前で何とも情けない姿を見せてしまった。

恥ずかしさのあまり大竹君の顔を見れずにいると、ずっと頭を撫でていた大きな手が離れていった。

「…俺が我が儘言って残業しなかったせいで、すいません」
「イヤ、俺の方こそ突然情けないトコ見せちゃってごめんな。残れないっていうからには何か特別な事情があるんだろ」

言いながら、実はその理由というのがチンピラの集会だとかドラッグパーティーだとかそんなヤバそうな理由だったらどうしよう、とふと考えた。

顔を上げると、いつになく真剣な表情の大竹君と目が合って、何となく緊張してしまう。

しばらく沈黙が流れた後、大竹君が意を決したようにゆっくり口を開いた。





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