2

そんな風に俺があれこれ考えているとは全く思っていない大竹君は、ひとしきり笑った後、ガサガサと袋の中から色々取り出して俺のデスクの上に並べていった。

「あ、コレ、弁当っス。あと味噌汁ね。下着とシャツはロッカーん中。軽く引継してくれれば続きは俺がやるんで、伊坂サン飯食って仮眠してきていいっスよ」
「…デラックスカツ&エビフライ弁当…」

大竹君は毎朝、頼んでもいないのにコンビニで俺の朝食を買ってきてくれる。
しかも、いかにも徹夜明けの胃にもたれそうな豪華なお弁当ばかりをチョイスして。
そして、簡単な指示だけでやりかけの仕事をきちんと理解して引き継ぎ、俺を休ませようとしてくれるのだ。

「大竹君さぁ…」
「ハイ?」
「何でこんな事してくれるの?」

チラッと見上げると遥か頭上に、綺麗に形を整えた眉を僅かに跳ね上げた大竹君の顔が見えた。

「こんな事って…。あぁ、俺があまりに気の利いたイイ部下だからって、そんな感謝とかは全然いらねぇっスよ」
「イヤ…感謝とかもそうだけど…」

そこで言葉を区切って、考える。
どうしよう。無駄だと分かっているけれど、思い切って言ってしまおうか。

業務が厳しさを増すにつれ、俺の中で大竹君に対するモヤモヤはどんどん大きくなっていた。

「あのさ…、こんな事をしてくれるくらいなら、一緒に残業してくれた方がよっぽど嬉しいんだけど」

そう。
俺がこんなにハードな時間外労働を行っているにも関わらず、大竹君は毎日17時きっかりに退社するという超ドライな部下だった。

前にも何度か残業するように命令した事がある。
が、その度に何か用事があると言って、なんと前代未聞の残業拒否をされてしまったのだ。

こんな外見のワリに、大竹君は仕事がデキる。礼儀というものを知らないが勤務態度は真面目だし、積極的に新しい仕事も引き受けてくれる。
ただし17時になるまでは。
何故彼がそこまでして残業を拒むのか、俺には全く理由が分からなかった。

「だから伊坂サン、前にも言ったじゃねぇスか。俺、宗教上の理由で残業できないんだって」

俺を見下ろしたまま、表情ひとつ変えずに見え透いた嘘をつく食えない部下。

「それどこの宗教?俺が教祖に掛け合ってやるから教えろよ」

さすがにムッとしてイカつい大男を睨み付けながらそう言ってやると、普段引き締まったその唇が一瞬緩んで、次の瞬間、大竹君は大爆笑を始めていた。

「うっわ…!教祖とか言って!伊坂サン、もしかして信じちゃった?やべ…っ、すげぇ可愛い!」
「しし信じるワケないだろ!厭味だよ厭味!俺だって馬鹿じゃないんだから!」
「あー、死ぬっ、おかしー」
「笑い過ぎだ!」

本当に、誰かこの無礼な部下をどうにかしてくれたらいいのに。

それからしばらく、大竹君は発作的な笑いの波を繰り返し、あまりの馬鹿馬鹿しさに俺の眠気はいつの間にかすっかり吹き飛んでしまっていた。





(*)prev next(#)
back(0)


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -