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耳障りなコンピューターの作動音に囲まれたシステム管理室で朝を迎えるのは、もう今月に入ってから何度目だろう。

「…あぁ…今日も帰れなかった…」

重い頭をぐるりと回すと首筋の辺りがコキコキ鳴って、溜まりにたまった疲労具合を訴えた。

普段は他の部署に比べてそれほど明確な繁忙期を迎える事のないシステム管理室だが、今は来期からの新システム導入を控えて猫の手も借りたい程の忙しい日々が続いている。

イヤ。本当は猫の手より前に、もっと借りたい手があるんだけど…。

「うーっす!あ、やっぱ伊坂サン、昨日も泊まりだったんスか」

噂をすれば、とでも言うのだろうか。
無遠慮にドアを開けて朝っぱらから野太い声で出社してきた部下を見て、俺は激しい頭痛と目眩に襲われた。

「おはよう、大竹君。…寝癖を直す暇もなかったのか?」

じっとり送られる俺の視線に気付いた大竹君は、一瞬何の事かという顔をしたが、やがて豪快に笑い出す。

「寝癖って…!やだな、伊坂サン。コレちゃんとセットしてるに決まってんじゃないスか!やー、朝からすげぇボケっぷり。おかしー」

そんなの厭味に決まってるだろう。

とは間違っても口に出来ず、笑い続ける大竹君をぼんやり見つめる小心者の俺。
正直なところ俺は、目茶苦茶イカつい外見のこの部下にビビりまくっていた。


経理課から異動になって来た部下の大竹君は、身長190センチを超える、やたらがっしりした体つきの大男。
目が悪いせいだと本人は言っているが、俺を見下ろす目つきはすこぶる怖くて、いわゆるメンチを切られているのではないかと思う事がある。
社内規則に違反して明るく染めた髪をクシャクシャと無造作にセットして、今はもうないけれど、初めて会った時には顎にチョビ髭まで生えていた。

誰が見たってこれは怖い。
多分ちょっと前まで相当悪い事をやっていたヒトなんだろう。
一声かければ百人単位の舎弟が動くと言われれば、俺は間違いなくそれを信じる自信があった。

今まで俺と非常勤職員さんとの二人体制でやっていたシステム管理室に突然彼が配属されてきたのも、極力社外の人間との接触が少ない部署に問題児を置いておきたいという人事の意図がひしひしと感じられる異動だった。





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