胡蝶の夢〜偽りの青〜 | ナノ


act.5


ここ最近、一日中雨が降る日が増えていた。こっちの世界の梅雨なのかもしれない。
雨降りだと外にも行けず、(なんとこの国、傘が無い)本当に暇だった。
部屋には、いつものように掃除をする杏李さんと、私と同じく暇らしい橙真さんと悠月さん。

「よく降るね」

溜息混じりの悠月さんの声から、憂鬱さが感じられる。
ガラス越しに見える暗い海は、ひどく荒れていた。

「そうですね……何か気を紛らわす物でもあればいいんですけど」

「そうだなぁ。せっかくだから、流羽を王女っぽく調教でもする?みんなで」

「勘弁してください……」

悠月さんって、たまにさらっと怖いこと言う。

「だけど、流羽が来てから結構経つのに、全っ然変化無いわけだし」

更に指摘も鋭い。

「ねえ、橙真もなんとか言ってよ」

「すぐに変われと言っても無理だろう。以上だ」

適当な返答にむっとしたのか、悠月さんは橙真さんが座るソファの背後に立ち、手に握られた本を取り上げた。

「橙真、最近本ばっか読んでるよね」

ぱらぱらとページをめくり、一行も読まずに閉じる。
橙真さんは溜息こそついたものの、怒らなかった。

「緊急事態だからな。流羽のことも含め、何か参考になる文書が無いか探している」

「……それって結局、芽琉の為なの?それとも、流羽の為なの?」

自分の名が挙がって緊張してしまう。普段だったらそこまで過敏になることもないのだけれど、なんだか今の空気はぴりぴりしていて。
連日雨で二人とも気が立っているのだろうか。

「俺が流羽に親切にするのが気に食わないか?」

「どうして?」

少しの間の後、橙真さんが口を開く。

「嫉妬、だな」

「な……っ、違うよ。僕の目には芽琉しか映ってないんだから」

ということは、悠月さんは芽琉さんが好き、なのかな。
恥ずかしがるわけでもなく堂々と告白出来る姿は、少し羨ましい。
けど、そんな悠長なことを考えていられる状況でもない。

「橙真も同じだと思ってたんだけど、違うの?」

「お前の思う方でいい。どうせ、肯定しても否定してもお前は不機嫌になるのだろう?」

悠月さんが眉をぴくりと動かした。
なんだか、予想だにしていなかった展開になってきた。
そろそろ止めないと。
杏李さんに視線でそう訴えようとするけれど、知らん顔で掃除を続けていた。

……私がなんとかするしかなさそうだ。
気を逸らせるようなもの、何かあったかな……
そんなことを考えていると、数合わせで由乃ちゃんに合コンに付き合わされた時のことを思い出した。

「あのっ……王様ゲーム、やりませんか?」

「何それ?」

あの時、由乃ちゃんに無理矢理眼鏡を外され、真っ直ぐ歩けない私は引いてもらって飲食店へ向かった。
そこで行われたのが、王様ゲーム。
私は一度も王様になることなく終わったのだけど……

人数もそれなりにいるし、きっとゲームとして成立すると思う。

「王様ゲームは……」

割り箸が無いので、鞄の中からノートを出し細く四枚に切って、それぞれに王冠、太陽、三日月、星のマークを書いて捻った。
普通は数字だけれど、読めないかもしれないから。

「一人一本これを引くんですけど、これを引いた人が王様になるんです。例えば、私が王様になったとしますね」

「ちょっと待って」

王冠マークの紙を摘んだ所で、悠月さんが流れを止めた。

「これ一本多くない?」

「え?」

もう一度数えてみるけど、太陽、三日月、星と冠マークしかない。

「合ってますよ?」

「僕には四本に見える」

「はい。四本です」

それを聞いて、悠月さんは顔をひきつらせ、杏李さんが動かなくなった。

「人数多い方が楽しいんですよ」

「……だってさ、杏李」

悠月さんが杏李さんに目を向ける。

「俺はまだ仕事が終わってませんから」

「へぇ、断るの?」

「…………」

悠月さんは笑っている。笑っているのに周りに纏っている黒いオーラは、気のせいではないはず。
ごめんなさい、杏李さん……

「あの……別に忙しいなら無理しなくても……」

「はい、杏李も参加決定」

「そ、そうですか」

これでいいのか、と橙真さんに視線を送ると、苦笑されて終わった。

「どうして俺がこんなこと……」

「何か言った?」

「いえ、何も……」

初めて、人を心から同情した。

「それにしても、太陽と月と星、か」

橙真さんが真面目な顔つきで紙を拾い上げる。
ちゃんと太陽と月と星に見えていたのは嬉しいけれど、もしかして分かりづらかっただろうか。

「ごめんなさい、描き直します。なんのマークがいいですか?」

「いや、このままで構わない。実にお誂え向きだなと感心しただけだ」

“感心した”と言うわりに、あまり表情は晴れない。
『ずっと同じマークを引いたりして』と悠月さんが笑う。
よく意味が分からず杏李さんを見てみるけれど、私の視線に気付いていないのか目を合わせてくれなかった。

「それで、やり方はどうしたらいい?」

「あ、はい」

そうだ。今はぼやっとしている暇は無い。
橙真さんに促されるまま、説明を続ける。

「えと……例えば私がこれを引いたとして、一つだけ皆さんに命令出来ます。もちろん一人にでも構いません。でも命令は、『太陽の人が〜』という風にマーク指定でお願いしますね」

「それって、杏李が引いたら、僕達が杏李の言うことを聞かなきゃいけない時もあるってこと?」

日頃命令する側だから抵抗があるのか、悠月さんが表情を歪ませる。

「あの、遊びなので、節度を守って気楽にやりましょう」

なんだか重くなりそうだったので一応釘を刺しておく。みんな納得してくれた。

「一回やってみましょうか」

マークが隠れるように紙束を握る。一人一本ずつ引いていき、自分に回ってきたのが何か確認する。
これで、みんな和んでくれたらいいのだけど。

「誰が王?」

悠月さんが問う。ということは、一番危ない人が王様から外れたことになる。
私が引いた紙には、星が書かれていた。

「俺だ」

最初の王様は橙真さん。
真面目そうな橙真さんが考える命令って、一体何だろう?

「太陽の奴は今日一日語尾にピョンを付ける」

「「「…………」」」

思わず吹き出してしまった。それは、自分が太陽じゃないからこそだと思う。
だって本人には申し訳ないけど、杏李さんか悠月さんが『〜だピョン』って言うなんて、想像するだけで面白い。

「今日は太陽な気分じゃないでしょ?橙真。ほら、橙真が太陽なんて安直すぎるし」

悠月さんが説得しようとしている。太陽を引いたんだろうな、多分。
全員の視線を受けて、悠月さんはたじろいだ。

「ぼ、僕に恥かかせるつもり!?」

「そういうルールですから……」

まあ、少し可哀想な気もするけれど、確かにルールだから仕方ない。それに、悠月さんなら可愛げがある。

「流羽、交換しよう」

「えっ!」

「悠月、誓約を守らないなんて王失格だぞ」

橙真さんにそう言われると、悠月さんは唸りつつも大人しくなる。
なんだかんだで、悠月さんは橙真さんの言うことを一番よく聞く気がした。
もっとも、誓約だなんて大層なものでもないのだけど。

「覚えてろ、橙真」

呪いのように呟かれた言葉も、今は聞こえないふりをしておく。

「じゃあ、今みたいな感じでもう一回やりましょうか」

もう一回紙をかき集めて握る。
次こそ王になろうと、みんなが気迫をぶつけ合う。
こんなに息苦しいゲームだったっけ……

「あ……俺です」

2回戦の王様は杏李さんだった。
途端に、悠月さんから無言の圧力を掛け始める。
殺気とか、よく分からないけれどそういうものを放っていると思う。

「悠月さん、ゲームですから……」

「分かってるよ。で、何命令するの?」

「じゃあ……これが終わった後星の方はこの部屋の掃除、俺の代わりにやっておいてください」

自分が引いた紙を見たら、また星が書いてあった。
指名されてしまったのに、悠月さんに当たらなかったことで安堵した。せっかく場を和ませようとしているのに、余計に険悪なムードになったら台無しだから。

「私です、星」

「やっぱり、お前ごときじゃ、この僕に命令なんてできない運命なんだよぴょん」

悠月さんがふんぞり返って言う。
良かった。少し機嫌直してくれたかな。

「でも、自分が使わせてもらってるお部屋なんで、そのくらいします」

「謙虚だねー流羽は。大丈夫、サボっても明日になったら杏李が綺麗にしてくれるぴょん」

「そういうことは当人に聞こえないように言え」

「あはは……」

それでも、ルールなのできちんとやるけれど。
このゲームを提案した私がサボったりしたら示しがつかなくなってしまうし、何より……

「次やるぴょん!というか、僕が王になるまでやるぴょん!」

悠月さんがきちんと言いつけを守っているので、やらないわけにいかない。

こうして悠月さんの要望により王様ゲームは続いたのだけど、私、連続で橙真さんの順で王になり、引きに恵まれないようだった。
その方が平和な気もしてほっとしたのも束の間。

「来たよ、これ」

悠月さんがにやりと笑う。
無茶な命令をされないように、自分が指名されないように、きっとみんな願っただろう。

「何を命じるんだ」

橙真さんが如何にも嫌そうな顔で尋ねる。
『うーん』と唸ってから、悠月さんは杏李さんを見た。

「杏李何?」

まさかの速攻インチキだった!

「悠月さん、それ……」

『ズルですよ』と言い掛けて、飲み込む。
目に見えない火花を散らす二人に、口を挟めなくなる。
いつもに増して反抗的な視線を投げていた杏李さんだったけれど、先に目を逸らして呟いた。

「……俺は太陽ですよ」

ああ……杏李さん、きっとえげつない命令されるんだろうな……
今日だけで杏李さんを何度可哀想だと感じたことか。

けれど、この時私は同情する対象を完全に誤っていた。

「じゃあ、月の奴は今後一切敬語禁止ぴょん。僕達のことも呼び捨てにするぴょん」

「え?月、ですか?」

「うん、月」

少しの間、時間が止まったような気がした。
まさに私が引いた紙には月が描かれていたから。
てっきり杏李さんを貶めようとしているのだと思っていたのに、どういうことなのだろう。

「なるほどな。意図は分かったが、強引すぎるぞ、悠月」

橙真さんが溜息をつきながら、自分の紙に描かれた星を公開する。
満足そうに悠月さんが笑う。

「だって、このくらいしないといつまで経っても流羽の敬語は直らないぴょん。これじゃ人前で会話も出来ないぴょん」

「……お前、口調のせいで冗談を言っているように聞こえるぞ」

「橙真のせいでこうなったんだけどっ!」

双子さん達は盛り上がってる様子だけれど、まったくもって意味が分からない。

「えっと……どういう意味なんでしょう?」

「杏李さえ除外すれば、悠月にとってこの命令にデメリットは無くなる」

「橙真に呼び捨てされるなんて今までと変わらないし、流羽に当たればラッキーだなって。ま、そういうわけで、流羽はこれから敬語使ったら夕飯抜きの刑だぴょん」

「えっ!?そんないきなり……っ」

「諦めろ、流羽。確かにいい機会かもしれない。家族と接すると思って俺達と会話すればいい」

「じゃ、試しに僕のこと呼んでみてよ」

悠月さんが満面の笑みで自分のことを指さす。
橙真さんも杏李さんも、助けてくれそうにない。

「ゆ、ゆ……」

続きを促されるわけでもなく、もういいと制止されるわけでもなく。
口ごもる私をじっと見つめる期待に溢れた瞳が痛い。

「ゆっ悠月……っ」

「はい、じゃあ次こっち」

今度は橙真さんを指される。

「と、橙真……っ」

「ついでに」

この流れで指されたのは当然。

「あ……杏李……」

「うんうん。やれば出来るじゃん」

“よしよし”と悠月さん……じゃない、悠月が頭を撫でてくれる。
今までの人生で男の子を呼び捨てにしたことがあっただろうか。女の子ですら記憶に無い。
恥ずかしくて顔を両手で覆う。きっと真っ赤になってるんだろうな……

「可愛いなぁ。初々しいっていうの?新鮮だね、こういう反応」

「っ!」

突然、ぎゅっと抱き締められる。
ああ、もう頭がくらくらする。目が回ってしまいそう。

「悠月、程々にしておけ」

「はいはい。でも、流羽が素直で良かったよ。『そんなことするなら夕飯抜く!』って言われたらどうしようかと思った」

そ、その手があった……

その後も、王様ゲームは続いた。
橙真が『三回回ってワン』と言わされたり、杏李が腹筋50回やらされたり、悠月が女装させられたり、散々だった。
当然私も例外ではなく、『私、一生あなたのうさ耳でいるピョン』と意味不明なことを言わされたりした。

途中、何回か“さん”付けして呼びそうになったり敬語になったりして悠月さんに睨まれたけれど、今では大分慣れた。……と思う。

「次!今度こそ僕が勝つぴょん!」

「お、落ち着いて、悠月さ……じゃなくて、悠月」

身を乗り出す悠月を宥める。その時。

─コンコン

誰かが部屋のドアをノックした。
杏李がすぐに対応へ向かう。
自然と、ゲームは中断された。

「もうすぐ夕食のお時間ですが……」

「分かった」

本当に短い言葉を交わしただけで、ドアが閉まる。

「もうそんな時間なんだ……」

窓の外を見ると、すっかり雨は止み、海が朱に染まっていた。
夜の訪れを、一日の終わりを告げる色。
だからなのかな。どこか寂しく思えるのは。

「騒いだらお腹空いちゃったな」

「うん、そうだね。早く行こっか。時間も潰せたし、流羽の余所余所しい口調も改善されたし、今日はいいこと尽くめだったね」

「少し疲れたが……」

満足そうな悠月に対し橙真は腰が重そうで、苦笑しながらゆっくり立ち上がる。

「あ……でも、私部屋の掃除しなきゃ」

「構いませんよ。俺がやっておきます」

杏李がまたドアを開け、私達三人に外へ出るよう促す。
橙真と悠月はさっさと出て行ったけれど、私はどうにも足が進まない。

「それじゃルール違反になっちゃうし……」

「あなたがいない間にやってしまった方が効率的です。それに、ゲームはもう終わったんですから無効ですよ」

「でも……」

反論しようとしたけれど、杏李が迷惑そうな表情をしていたので止める。

「じゃあ、いってきます」

「いってらっしゃいませ」

従者らしい丁寧なお辞儀の前を通り、部屋を出る。
静かに閉まるドアの音を背に、私達は食堂へ向けて歩き出した。
食堂といっても、料理が運ばれてくる以外は三人しかいない。おかげで気楽に食べられるのだけど。

“今日の夕飯は何か”とか“もうぴょん付けしなくていいか”とか、他愛もない話をする。けれど、その時間を“楽しい”と思えば思う程、私は杏李のことを考えていた。

さっきまで一緒に遊んでいたのに一人取り残されて、寂しくないのかな……
立場の違いがあるから、この世界では仕方のないことなのだろうけれど。
それに、自分だけ命令を免除してもらったのにお礼も何も言ってない。
夕食後はとっくに掃除は終わっているだろうし、そうしたら次杏李に会えるのは明日になってしまう。
なんだか、もやもやする。

「二人とも、ごめん。私ちょっと部屋に戻るね。追いかけるから先に行ってて」

「どうかしたの?」

「うん、ちょっと」

適当に言葉を濁して引き返す。
転ばないようドレスの裾を持ち上げて走った。
元々運動不足気味だったので、部屋に着いた時には息が切れていた。
深呼吸してから、ドアを開ける。

「あ……杏李っ」

杏李は、窓枠に手を付いて外を見ていたようだった。私が部屋に入ると、開け放たれていた窓を閉める。

「何か忘れ物でも?」

「ううん。あ、ある意味忘れ物なのかも……」

「どっちなんですか」

「あのね、杏李も……良かったら一緒に食べない?ご飯」

「遠慮します。国王と食事だなんて、味も分かりませんよ」

「そ、そうだよね……ごめん……」

言われてみれば、確かに息が詰まるかもしれない。私が杏李の立場だったら絶対御免被りたい。

「まさか、そんなことを言いに?」

「う、ううん。それだけじゃなくて……」

絶対迷惑がられている。
なんだか申し訳なくなって、杏李の顔を見ることが出来ない。

「急に一人になって寂しくないかなって心配だったのと、結局掃除任せちゃったこと謝りたくて……」

「……そんなことを言いに?」

その台詞、本日二回目です……
杏李は大きく溜息をついた。

「俺は一人が好きなんで寂しいだなんて思ったこともないです」

「本当に?」

「賑やかなのが好きなように見えますか?」

……見えないかも。
もしかしたら、無理矢理王様ゲームに付き合わせてしまったのも迷惑だっただろうか。否、迷惑だったに違いない。

「そっか……ごめんね、今日巻き込んじゃって……あの、でも、私とっても楽しかったから!杏李も、一緒に遊んでくれてありがとう」

杏李は少し驚いた顔をして、でも何も言わなくて。なんだか気まずくなってしまう。
杏李と二人でいるといつもそうだ。
ダメだなぁ、私……

「私の早とちりで掃除の邪魔しちゃったね。もう、行くね」

「いえ……ご覧の通りサボってましたから」

そういえば、部屋に入った時まだ杏李は掃除に取りかかっていなかった。
少し気が楽になって顔を上げる。

「それなら良かった」

「良かった、ですか。俺が仕事を放棄していたのに良かったんですか?」

「それは、良くないかもしれないけど……でも気分転換も大事だよ、うん!せっかく静かになったし、夕焼けも綺麗だし……浸りたくもなるよね!大丈夫!ゆっくりご飯食べてくるから!」

一体誰に言い訳してるんだろう、と自分に苦笑してしまう。一人で捲くし立てて引かれたも……と不安にもなる。
けれど次の瞬間、その不安はどこかへ消え去った。

「本当に、あなたは……」

この時、私は初めて

「おかしな人ですね」

杏李が笑った顔を見た。

ああ……こんなに優しい顔をする人なんだ、と反射的に思った。
“おかしな人”だと言われているのだから、喜ぶことではないだろうけれど、なんだか嬉しくて私も笑った。

「それじゃあ、今度こそ行くね。ほんとにゆっくり食べてくるから安心してね!」

「その話はもういいです。まあ、一応期待しておきますよ」

「うんっ」

先程とは違って、清々しい気分で部屋を出る。
食堂に着いたら、食べずに待っていてくれた悠月に遅いと叱られたけれど。

きっかけって、やっぱり大事なんだ。
何気なく提案した王様ゲームだったのに、やる前よりずっとみんなとの距離が縮まった気がする。
今のような関係を、“友達”って呼ぶのかな。そうだと嬉しいな。

「橙真、悠月」

冷めかけたスープを口に流し込む。
両手を膝に置いて、料理に髪が付かない程度に頭を下げた。

「これから、よろしくお願いします」

「どうかしたのか?急に改まって」

「なんとなく」

「ふふっ僕達の方こそ、よろしくね」

こんな風に、由乃ちゃん以外の人と親しくなれるなんて思ってもみなかった。
きっと私は、今日のことをずっと忘れないだろう。


第一章「水都〜蒼〜」 完 



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