memo | ナノ


SS:St.VD


2011/02/14

「お邪魔しまーす」

勝手にドアを開けて、勝手に部屋に入る。
一応礼儀ということで、靴は揃えておいた。

「いらっしゃいませ、由乃様」

スーツ姿の凪沙が笑顔で迎えてくれる。
あぁ……いつ見ても眩しい。

ここはマンションの一角。
響の家だ。
異世界という、とんでもない場所から戻ってきて、一年以上が過ぎていた。
最初は文字も読めなかった響が、知らないうちにあたしより頭良くなってる。凪沙も同様。

しかも、人の下で働くのが性に合わないとか言って、小規模だけど会社を立ち上げようとしてる。
世の中そんなに甘くないのにって言ってやったけど、響と凪沙のコンビだと、なんでも出来ちゃいそうで怖い。

大体いつこんなにお金稼いだんだろう。
きっと訊いても教えてくれない。
どんな会社を作るかも教えてくれないし。
凪沙曰く、完成するまで秘密らしい。

あたしも無理にいろいろ聞き出さないことにした。
響嫌がりそうだしね。そういうの。
代わりに、合い鍵貰って好き勝手出入りさせてもらってる。


「ねぇねぇ、今日なんの日でしょーか」

机に向かって書類と睨めっこしていた響に尋ねてみる。
今日は2月14日。
バレンタインだ。

「製菓会社の商法にまんまと引っかかっているとも知らずに、浮ついた女がチョコレートの売り上げに貢献する日だろう」

「…………」

こういうとこ、ホンっト可愛くない。
あたしは鞄から小さい箱を出して、乱暴に机の上に叩きつけた。

「浮ついてて悪うございましたね!一個も貰えなかったら可哀想だと思って、持ってきてやったんだから!」

手作りだとか、甘いものが嫌いだろうからビターにしただとか、絶対に言いたくない。
あたしは“ふん”と響から顔を背け、お茶を運んできてくれた凪沙の下へ行く。

「はい、凪沙の分。こっちは愛情こもってるから」

響のとは色が違う包装の箱を手渡す。
凪沙は驚いた顔をして箱とあたしを交互に見た後、いつものように微笑んでくれた。

「ありがとうございます。大切に頂きます」

「口に合わなかったらごめんね」

「いえ。由乃様がくださったものですから、確実に美味ですよ」

響がただのカカオで凪沙は糖分だなぁと思う。
用件が済んだので、さっさと部屋から出る。
玄関先で、溜息をついてしゃがみ込んだ。

「こんな日くらい素直になればいいのに……あたしのバカ」

つづき 



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