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 とりあえず今日は一日、俺はマルコの付き添いをすることになった。
 一緒にいると言ってから、マルコの機嫌はうなぎのぼりのようだ。

「ナマエ、ナマエ〜」

「どうかしたか、マルコ」

「なんでもないよい!」

 人の名前を呼んでおいてそんなことを言い放ち、マルコはにこにこと笑っている。
 甲板を走り回った後で、近寄ってきたマルコが両手を俺へ向けて伸ばしたので、俺は求めに答えて小さな体を抱き上げた。
 いつも背中に突撃してくるマルコの体よりは軽い。当然か。

「マルコ、次はどこへ行きたいんだ?」

「みはりだいよい!」

 俺の問いかけに、ぴっとマルコの指が見張り台を指差す。
 言われて視線をそちらへ向けた俺は、眉を寄せてから首を横に振った。

「あんな高い場所はまだ危ないだろう」

「へーきよい、マルひとりでものぼれるよいっ」

 にこにこ笑ったマルコの言葉に、俺はいつだったか公園でそんなことを言っていたマルコを思い出した。
 けれども、だったらいいか、と頷けるものでもない。
 マルコの体は悪魔の実の能力を持ってはいるが、怪我をすればその分の痛みは当然被るのだ。
 もう一度首を横に振ると、むう、とマルコが頬を膨らませた。
 けれども、ややおいて目を瞬かせてから、ぷしゅう、と口から空気を吐き出した後で、どうしてか上目遣いで俺を見上げてくる。

「……ナマエ、しんぱいよい?」

 そうしてそうっと問いかけてきた相手へ、当然だろうと俺は頷いた。

「もし万がいち落ちたら、痛いだけじゃ済まないからな。マルコがもう少し大きくなるまで、見張り台は上らないでおこう」

 もう少しも何も時間がたてばマルコは元の姿に戻るのだが、俺の言葉を受けたマルコはこくりと小さく頷いた。
 なぜかはにかみつつ、わかったよい、と素直に寄越された言葉に、よしよしと小さい頭を軽く撫でる。

「どうして見張り台に行きたかったんだ?」

「とおくまでうみみるよい!」

 尋ねてみるとそう返事が寄越されたので、俺はいくつか階層わけされている甲板のうちの一番高いところへ移動することにした。
 歩き出した俺に、マルコが小さな手でしがみついてくる。
 楽しそうなので波に揺れるモビーディック号に合わせてその体を軽く揺すってやってから、すぐにたどり着いたデッキで足を止めた。

「ここからで我慢してくれるか」

「よい?」

 問いつつ少し体を離してみると、俺の言葉にしがみつくのをやめたマルコが、俺が促した方向を見やる。
 見張り台ほどではないがそこそこ見晴らしのいいそこからは、果てしなく続くグランドラインの大海原が広がっているのが見えた。
 その深さを示すような青を宿した海が波を起こして、モビーディック号がかき分けた水面に白い跡が残っていく。遠くを飛んでいるのはウミネコだろうか、カモメだろうか。
 海に目を奪われたマルコの手が、ぎゅう、と俺の服を捕まえた。
 まるで必死に縋り付くようなそれに、釣りをしているクルー達を見下ろした視線をマルコへと戻す。
 その目で青い海をしばらく眺めてから、マルコの視線が俺の方を向いた。

「……うみは、いつもおんなじよい」

 少しほっとしたような顔をして、マルコがそんなことを言う。
 唐突なその言葉に、俺はぱちりと瞬きをした。
 マルコの体から力が抜けて、俺の方へともたれてくる。
 そうやって俺に抱き着きながら、顔をもう一度海の方へ向けたマルコの背中に、軽く手を添えた。
 俺達にとっては『大きいマルコ』が『小さくなった』というだけの話だが、もしかするとマルコにとっては、自分以外のすべてがまるで変ってしまった、という状態なのかもしれない。
 白ひげすら外見に変化があったらしいのだから、それも当然だ。
 笑っていたが、マルコも不安だったんだろう。
 こういう時、なんと言ってやるのが正解なんだろうか。
 考えてみるものの、慰めとして吐き出せる言葉が見つからなかった。
 だからそのかわりに、小さな背中を軽く撫でる。
 下からクルーがマルコを『遊び』に誘うまで、海を眺めるマルコを抱き上げたまま、俺はデッキに佇んでいた。




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