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 小さなマルコに合わせて作ったという釣竿で釣りをしたり、組手をするんだというマルコがビスタに飛びかかっていくのを見守ったりして過ごした後、ぐう、と腹を鳴らしたマルコを連れて俺が移動したのは食堂だった。

「はいよ、お待たせ」

 今日の当番らしいサッチが、出来上がった昼食をわざわざ運んできてくれた。
 黄色い柔らかそうな卵で包まれたオムライスが、どうやら今日のメニューらしい。
 マルコはオムライスが好きだったから、きっと気を使ってくれたんだろう。
 ありがとうとそれを受け取ってから、マルコの前にもそれを置く。
 大きなスプーンを置いたまま、マルコがぱちんと両手を合わせた。

「いたきます、よい!」

「…………」

 真横で紡がれた懐かしい挨拶に、何となく本当にそこにいるのが『あの』マルコであるということを実感した。
 足りない『だ』はいつ頃から足されたんだろうか。
 そんなことを思いつつ、俺も両手を合わせて挨拶をして、食べ始めたマルコの横でスプーンを手に取る。
 口に運んだそれは、俺が自分で作っていた簡単なオムライスよりずいぶんと本格的な味がした。
 サッチは海賊をやめても料理人として生きていけるんではないだろうか。
 おれも飯にしよう、と呟いて向かいに自分の食事を運んできたサッチが、ん? と声を漏らして、どうしてかその視線をマルコへ向ける。

「どうした、マルコ」

「マルコ?」

 問いかけたサッチに、俺も傍らのマルコを見やった。
 俺より先に食べ始めたマルコが、その口にスプーンを入れたまま、どうしてか眉間に皺を寄せていた。
 小さな子供がやるには珍しい苦い顔に、軽く首を傾げる。
 スプーンをゆっくりと口から引き抜いて、もぐもぐと口を動かしたマルコは、口の中身を飲み込んでからその目でじとりと前方のサッチを見やった。

「これ、オッサッチがつくったよい?」

「…………いや待て、なんだオッサッチって」

「オッサンのサッチよい」

 いつの間にやらあだ名をつけていたらしいマルコの発言に、ひどくね!? とサッチが声を上げる。
 けれどそれを気にした様子もなく、もう一口ぶんのオムライスをスプーンで削り取ってから、マルコはもう一度サッチを見やった。

「これ、ナマエのオムライスじゃないよい」

 むうと口を尖らせて言われて、名前を出されてしまった俺もスプーンを運ぶ動きを止める。
 もう一口オムライスを口へ運びつつ、何とも言えない顔でそれを噛むマルコへ、サッチが首を傾げた。

「そりゃそうだろ、今日はおれが当番だったんだから。なんだよ、まずいか?」

「……まじゅくにゃいひょい」

 もぐもぐと口を動かしつつ言葉を放ってから、ごくんと口の中身を飲み込んだマルコが、とてつもなく不本意そうな視線をオムライスへ注いでいる。
 よくわからないものの、マルコの隣で俺ももう一口オムライスを食べた。
 口に広がる味を堪能して飲み込んで、マルコへ視線を戻す。

「美味しいな」

「……おいしいよい」

 俺の言葉にマルコは返事を寄越すが、どうしてかまだむうと口を尖らせている。
 ついでに言えばすでにケチャップで口の端が汚れているが、拭かせるのは後でにしたほうがいいだろうか。

「そんな不満そうな顔するなよー」

 傷つくわー、とため息を零して困ったように笑ったサッチが、夜に作ってもらえるって、と俺へ目配せしながら無責任な言葉を続けた。
 それに俺が反応するより早く、は! とばかりに目を見開いたマルコが、小さな頭を大きく動かして頷く。
 そうしてその目がすぐさまこちらを向いて、きらきらと期待に満ちたまなざしが俺の顔に突き刺さった。

「ナマエ、つくってくれるよい?」

「………………ああ、わかった」

 その顔で問いかけられて、はたして拒否できる人間がいるだろうか。
 頷いた俺の横で、上機嫌になったマルコがぐっとスプーンを握りしめ、それをそのままオムライスへと突き刺す。

「…………サッチ」

「いや、いいじゃん、作ってやれよ」

 非難してやろうと思って顔を向けたが、サッチは楽しそうに笑っているだけだった。




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