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 俺の職場は、マンションから徒歩十分のところにある。

「あら、おはようナマエくん! ……その子、どうしたのかしら?」

 いつものように現れた俺に笑顔を向けてくれたお袋の友人は、俺の顔を見て、それから俺の足に隠れるようにして立っているマルコを発見して、不思議そうに首を傾げた。

「ちょっと事情があって、預かる事になったんです。マルコ、挨拶しろ」

「……マルコよい」

 促されるがままに名乗って、マルコの大きな目がじっと彼女を見上げている。
 それを見下ろして、もう少し頑張れ、と言葉を落とすと、大きな頭がぴょこんと下げられた。

「はじめまして、よい」

「あらあら、ご丁寧にありがとう。はじめまして、マルコくん」

 頭を下げたマルコに目を丸くした相手へ視線を戻して、俺はとりあえず用件を告げる。
 もしもここで拒否をされたら、そのまま早退の手続きを取らせてもらう予定だからだ。

「小さい子を留守番させるわけにも行かなかったんで連れてきました。すみません、保育ルームに預けさせてもらっても大丈夫ですか?」

「大丈夫よー、お利口さんみたいだしね」

 けれども俺の心配をよそに、ふふふふ、と目の前の彼女が笑って、すぐそばの棚から取った紙を俺に渡した。
 保育ルームに子供を預けるための提出書類だ。
 受け取ってからすぐそばの机でそれを記入しだした俺を、マルコが不思議そうに見上げる。

「ナマエ、なにかいてるよい?」

「マルコの名前。マルコ、俺が仕事を終わらせて戻ってくるまで保育ルームで待ってて欲しいんだが、できるか?」

「まってるよい?」

「そう」

「ナマエ、ちゃんともどってくる? ぜったい?」

「絶対ちゃんと迎えに来る」

 そう言ってやってから、自分の腕に巻いてた時計を外してマルコに差し出す。

「この短い針が十二のところをちょっと過ぎて、長い針が六くらいになったら迎えにくるから、そうしたら一緒に昼飯だ。その後ももう少し待って、短い針が五のところに来て長い針が十二のところになったら帰るから、それまで頑張れるか?」

 言いながら小さい手に腕時計を握らせると、俺の言葉を聴きながら文字盤を眺めたマルコが、こくりと一つ頷いた。

「マル、まってるよい」

「よし」

 頷いたマルコの頭を軽く撫でてから、希望時間にフルタイムを記入して、俺は書類をお袋の友人へと差し出した。
 受け取った彼女が、ほほえましいものを見るような顔で笑って、それを受け取る。

「何だかマルコくん、ナマエくんの子供みたいね」

 くすくす笑われてもどうしてだかよくわからず、俺とマルコは二人できょとんと顔を見合わせた。




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