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12



 ようやく城を作り上げたらしいマルコは、俺にその完成した城らしい砂山を見せた後、思い切り飛び込んでそれを破壊した。
 男児というものは、創作と同時に破壊も楽しめるものらしい。
 一緒の砂場にいた女の子とその母親が目を丸くしていたから、俺はなんとなくそう把握した。

「ないなーい、よい!」

 どしどしと砂をスコップで攻撃して、自分が建築した城を跡形も無く更地に還したマルコが、にっこり笑う。
 その顔についている砂を片手で払ってやってから、バケツと道具を回収した俺はマルコを手洗い場へ連れて行った。
 砂で汚れた手を洗わせてから、タオルを持っていなかったことに気付く。

「帰ったらもう一度洗うからな」

 仕方なく、砂場で遊ぶ事の無かった俺の服のすそで小さな手をぬぐって、とりあえずの応急処置をした。
 マルコはまったく気にした様子も無く、次はあれだと公園の一角を指差す。
 そこにあるのは、よくある二つ並びのブランコだ。
 駆けていくマルコに合わせて後ろからついていけば、先にブランコへ辿り着いたマルコがブランコの鎖を掴む。
 そうしてそのままするりと鎖を登りだしたので、俺は慌てて開いていた距離をつめた。

「マルコ、何やってるんだ」

「のぼるよい!」

「登るものじゃない。降りろ」

「のぼらないよい? じゃあ、どうやってあそぶよい?」

 鎖に捕まったまま、俺の顔くらいの位置まできたマルコは不思議そうだ。
 むしろ、ただの鎖をよくもまぁこれだけ登れるものだ。
 バケツを足元へ置いてから、その体を掴んで鎖から離し、マルコをブランコへ座らせる。

「ここ掴んどけ」

 そうして小さな両手を両側の鎖に触れさせて、しっかり掴んでおくよう指示をした。
 素直に従いながら、マルコはまだ不思議そうだ。
 その背中を軽く押すようにして、ゆっくりとブランコを揺らす。
 低すぎて屈んでいるのがきついが、仕方ない。
 ゆっくりとした動きで揺れ始めたブランコは、マルコの体をふわりふわりと前後へ運び始めた。

「後は、足を伸ばしたり曲げたりして、自分で漕いでみろ。前へ行くときは伸ばして、うしろへ戻るときに曲げたらだんだん高くなっていくから」

「よい! ……わぁ、ほんとよい!」

 俺の言葉に従ったマルコが、短い足を一生懸命動かして、どんどんブランコを漕いでいく。

「そこそこの高さまでにしておけよ」

「よーい!」

 返事だけはよろしいマルコがはしゃぎながらブランコを揺らして、俺はそばでそれを見ながら膝を伸ばした。
 マルコが大きく足を動かして、どんどんとブランコの勢いが強くなる。

「おい、マルコ、そのくらいまでにしておけ」

「わかってるよい!」

 にこにこしながら言い放ったマルコが、少しばかり足を動かす速度を落とす。
 楽しげな様子に、やれやれと息を漏らしてから、俺は勢いよくブランコを漕ぐマルコのそばから少し離れた。
 ここの公園はそこそこ広い所為か、ブランコに囲いがないのだ。
 せめてマルコの正面辺りに立って障害物にでもなっておかないと、走ってきた子供などがマルコの伸ばした足に当たりかねない。
 靴が飛んでくるとは思わないが、振り上げた足にぶつかったりしないよう距離をとりつつ正面へ移動してきた俺を見て、なぜかマルコが目を輝かせる。
 それを見てどうしようもなくいやな予感がした俺は、わずかに身構えた。
 少しきしむ音を立てつつ、ブランコが一定の間隔で揺れる。
 そうして大きく前へ振り切ったそのとき、マルコの体が宙に浮いた。

「ナマエー!」

「うっ!」

 とてつもなく嬉しそうな声を上げながら、マルコが足から飛び込んでくる。
 落下しながら胸を蹴りつけるようにされて息をつめつつ、俺は両手でマルコの体をどうにか受け止めた。
 勢いを殺せずうしろへ少し足を引く事になったが、無様に転ばなくて済んだ。
 けれども、抱きとめたときにむぎゃっと変な声を出されたので、俺は慌てて腕の中のマルコを見下ろす。

「おいマルコ、大丈夫か?」

「ナマエ、すごいよい!」

 人の心配をよそに、きゃあきゃあ嬉しそうにマルコは笑っている。
 その顔を見下ろして、俺は大きくため息を吐いた。
 俺のそれを聞いて、マルコの顔が不思議そうになる。

「ナマエ?」

「……お前な、マルコ、さっきから何で危ない事ばかりするんだ?」

 ジャングルジムで懲りたんじゃないのか。
 むしろ、ブランコに乗ってどうして跳ぼうという発想になるんだ。
 俺の顔を見上げたマルコの顔が、だんだん不安そうに歪んでいく。

「ナマエ……おこったよい?」

 そうしておずおずと小さく聞かれて、俺はとりあえずマルコを降ろした。
 不安そうに人の足に手を触れてくるマルコの顔に手を伸ばして、その頬をつまんでみる。
 むにぃ、ととてもやわらかい頬は俺の指によって少し伸びた。

「少し怒った。もう危ない事はするな。これ以上やるなら、もう帰るぞ」

「や、やぁよい。もうぜったいしないよい、ごめんなさい」

「なら、よし」

 慌てたように首を横に振られて、とりあえず頷いてやる。
 初めて来た場所にはしゃいでいるらしい、ということは分かるのだ。
 マルコの反応を見るに、公園なんてところに来た事が無かったんだろう。
 ただ、妙に自分を軽視しているというか、危ない事をしても平気だと言いたげな行動が気に入らない。無鉄砲すぎる。
 俺を見上げたマルコが、もう一度小さく、ごめんなさいと謝る。
 それから、ジャングルジムのときのように俺の足にぎゅうっと抱きついてしまったので、仕方なく俺はマルコの顔から手を離し、次なる遊具へマルコを連れて行くことにした。
 ちなみに、バケツはちゃんと回収した。





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