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 そういえば、これはマルコの公園デビューになるのだろうか。
 俺は、片手に小さなバケツを持ったまま、マルコと共にマンション裏手の公園へと出撃した。
 平日の昼時ともなると、ちらほら小さな子供と遊ぶ奥様や談笑している奥様がいる。
 ちなみに、俺が片手に持っているバケツはマルコの遊び道具が少し入っている。
 昨日、マルコがワンコインショップで見つめていた青いスコップと熊手みたいな奴だ。
 マルコは貝を採ると息巻いていたが、最初の使用はここの砂場になりそうだ。
 まずは砂場に突撃するのかと歩いていくマルコを見守りつつ後ろからついて歩いていたら、ぴたりと足を止めたマルコがそびえ立つ遊具を見上げた。

「ナマエ、これなによい?」

「ジャングルジムだ。登ってみるか?」

 低いところならいいかと見やって言うと、頷いたマルコが両手を伸ばしてジャングルジムを掴む。
 そのままよいしょよいしょと登り始めた様子を、俺はすぐそばで見ていた。
 意外とマルコは力持ちらしい。

「あんまり高いところまで登るなよ」

「だいじょぶよい! マル、みはりだいまでのぼれるのよい!」

 見張り台というのは、あれか、よく映画で見る船上のあの高いところか。この小さい体ですごいな。
 けれども、今はそんなところに感心している場合じゃない。
 ずいずい高いところへ登っていくマルコに、ため息を吐きつつ忠告する。

「落ちたら怪我するぞ」

「けがしてもへいきよいっ」

「……怪我する事前提なのはよくないぞ、マルコ。傷跡も残るし、何より痛いんだから」

 何となくだが、こいつはその見張り台とやらに登る途中でも落ちた事があるんじゃないかと思ってしまった。
 やれやれとため息を吐きつつ、上へ上へ登っていくマルコに合わせてかがんでいた背中を伸ばす。
 一番上まで来てからこちらを見やったマルコが、俺を見下ろしてにんまりと笑う。

「マル、ナマエよりたかいよい!」

「そうか、良かったな」

「ナマエちっちゃいよーい」

 とても楽しそうに笑いながら、マルコはジャングルジムの最上部に座り、ぶらぶらと体を揺らした。
 いやいや危ない。何をしてるんだお前は。

「マルコ、危ない」

「だいじょぶよい!」

 ため息を吐きつつ両手を伸ばして、俺はマルコが万が一バランスを崩しても支えられるように用意した。
 そんな俺を前にマルコはけらけらと笑って、更に体を揺する。

「あ」

「よい?!」

 そしてふらつき横に傾いだ。
 伸ばしてあった俺の掌へと、その体が倒れ込む。
 片手で支えるには少し勢いがあったが、どうにか俺はマルコが他の部分に頭をぶつけたりする前にその体を支えることに成功した。

「…………マルコ」

「よ、よい……」

 手で押しやってマルコを元の位置まで戻してやってから、正面からその顔を覗き込む。
 じっとその目を見据えると、眉を下げたマルコがおずおずと体を動かして、ジャングルジムを降り始めた。
 一歩一歩しっかり鉄の棒を踏みしめながら一番下まで降りてきて、最後にジャングルジムから離れた後、俺の足にぴたりとくっつく。

「ごめんなさい、よい」

 両手を人の足に回しながらしょんぼりとした様子で言うので、もう一つため息を吐いた俺は小さいその頭にぽんと手を置いた。

「人の注意はちゃんときけ」

「よい」

 返事なのかは分からないが、まぁ分かったようなのでよしとしよう。
 俺がそのまま歩き出すと、足にしがみついたままのマルコがアクセサリーでついてきた。
 左足が重たいが、気にせず砂場へ移動する。
 砂場には滑り台もあるし、マルコより年下らしい女の子が母親となにやら遊んでいる。
 こんにちは、と寄越された挨拶にこんにちはと返して、俺はマルコを足から剥がした。

「さて、マルコ。砂で遊ぶか?」

「……あそぶよい!」

 俺の言葉を聞いて俺の顔をうかがったマルコが、どこか安心した様子でそう声を上げる。
 その手に道具入りのバケツを持たせて、俺はすぐそばにあるベンチを指差した。

「じゃあ俺はあそこに座ってるから、何かあれば呼べ」

「ナマエもやらないよい?」

「残念ながら道具は一人分しか用意しなかった」

「ナマエはうっかりさんよい!」

 俺の言葉に、マルコが笑う。
 城を建築したら見せてやると言うので頑張れと激励して、俺はとりあえずベンチへと移動した。
 はぁやれやれと腰を下ろして、そこから砂場に屈み込んだマルコの背中を見やる。
 マルコは、一心不乱に砂を盛り始めていた。
 せっせと砂を積んで、形を整えようとスコップでそれに触れ、崩れたのに衝撃を受けた様子をする。
 何度かその動きを繰り返した後、同じ砂場で子供と遊んでいた女性に何かを言われて、その手がすばらしい道具を発見したかのようにバケツを持ち上げた。
 たくさんの砂をそれに入れて、バケツをさかさまに伏せ、そうしてそっと外す。
 さっきマルコがつんでいたよりは滑らかな形の砂の円柱体がそこに現れて、後ろから見てもマルコが顔を輝かせているのが分かった。
 更にいくつか同じようにバケツで砂を盛って、さらにその上にかぶせていく。
 砂自体の重みで端が少し崩れているが、マルコは気にした様子も無いようだ。

「満喫してるな、あいつ……」

 後ろから眺めているだけでも飽きないんだが、子供と言うのはみんなああなんだろうか。
 そんなことをぼんやり考えながら、俺は砂に夢中なマルコを後ろから見守っていることにした。





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