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13



 仏の顔も三度までと言う。
 次やったら問答無用で連れて帰ろうと思った俺の気持ちが伝わったのか、マルコはあまり無茶はせずに公園を遊び倒した。
 遊具で遊んで駆け回るその姿は少々髪型が奇抜なただの外国籍風の子供で、異世界から来たなんて言われたって誰も信じないだろう。

「マルコ、そろそろ帰るぞ」

 夕方近くなり、幼児を連れた大人の姿もあまりなくなった頃、そろそろ良いだろうと思って声を掛ける。
 少し離れた場所でぶちぶち雑草の花を摘んでいたマルコが、よい、とまた返事なのか何なのかわからない声を上げて、そのまま笑顔でそこから駆け出した。
 ばたばたと短い足を動かしたマルコが俺のほうへと走って、そうして勢いよく転んだのはその十秒ほど後のことだった。
 それも、思い切り顔面からだ。

「マルコ!」

 慌ててマルコのそばに寄って、その体を助け起こす。
 芝生から砂まみれの石畳に変わったところで転んでしまった所為で、マルコの額は少し擦り剥けて血が出ていた。
 砂もついていて、ずいぶん痛そうだ。
 石畳にはさっき摘んでいた雑草が落ちて広がっている。
 マルコは驚いた顔をして、それからむぎゅっと眉間にしわを寄せる。

「う……いたい、よい……っ」

 今にも泣いてしまいそうな顔をしつつ、自分の額を押さえようとするその手を、俺はそっと捕まえた。
 触って砂が入ったら余計痛いだろう。
 傷に触らないよう、その両手で今まで俺が持っていた道具入りのバケツを持たせる。

「大丈夫か? マルコ。帰ろう、家で消毒してやるから」

 救急箱はどこにおいてあっただろうか。
 つい最近、大掃除して場所を変えたのだ。
 大掃除なんてしなけりゃよかった。
 言いながら屈んでいた姿勢から立ち上がって、マルコを抱きあげて公園内を移動する。
 マンションへ急ごうとしている俺の腕の中で、ぐす、と鼻をすすって涙をこらえたマルコが言った。

「ナマエ、マル、だいじょぶよい」

「そうか、マルコは強いな。もう少し我慢してくれ」

 強がりに頷いて足を動かした俺の視界に、青い炎が映る。
 唐突なそれに驚いて俺が視線を炎へ向けると、そこにはマルコの顔があった。
 正確には、先ほど怪我をしたその額だ。
 マルコの肌からぶわりと湧いたその炎が、傷を覆うように隠して、そして消えていく。
 後に残ったのは、マルコの綺麗な額だった。

「え?」

 驚いて、思わず足を止める。
 まだ涙目のマルコの額には、もう傷なんて無い。
 ほんの少しもだ。

「……え?」

 いや、待て。おかしいだろう。
 俺はまじまじとマルコを見つめた。
 確かに先ほど転んで怪我をしたはずなのに、マルコの額にはそれが無いのだ。
 何故だ。

「だから、いったよい。だいじょぶよい、ナマエ」

 俺の目をまっすぐ見返して、マルコが言う。
 何かを説明しようとするその口を片手でふさいで、俺は周囲を見回した。
 昼を過ぎて、夕方に向かうこの時間、俺とマルコの近くに人影はない。
 少し離れたところにいる子供達は自分達の遊びに夢中で、幸い今の超常現象は誰にも見られていなかったようだ。
 そのことに小さく安堵して、俺はマルコの口から手を離し、小さな体を抱えなおした。

「……とりあえず、話は聞く。でも、部屋に戻ってからな」

「よい」

 俺の言葉に、マルコはこくんと頷いた。





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