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 両側を海軍大将に固められるというVIP待遇で、俺が連れて行かれたのはでかい部屋だった。
 目の前に座っているのはやっぱりでかい人で、頭に乗っているカモメに少しだけほっとする。
 青雉に連れて行かれて遭遇したのが黄猿だったから、次は赤犬だったらどうしようかと思った。
 センゴクは怖いけど、赤犬ほど極端じゃなかったはずだ。
 赤犬に会わされてたら俺はもう今頃死んでたと思う。赤いスーツのあの大将は疑わしきは殺せだからな。

「名前は」

「はい、ナマエです」

 厳しい顔のセンゴクに聞かれて、思わず背中を伸ばして回答する。
 そういえば隣の青雉もぴしーっと立ってる。黄猿もだ。左右の大きい人たちがぴしっと立っててそれにはさまれてる小さい俺って、結構シュールじゃないだろうか。

「出身は」

「日本です」

「ニホン? ……聞いたことが無いな。どこの海だ」

「東のほうです」

 聞かれるがままに答えて、でも、と小さく呟いておく。
 俺の声をちゃんと拾ったらしいセンゴクが目で促してきたので、俺は嘘を付け足す事にした。

「もう無くなったと聞いています。俺は……気付いたら両親と姉と旅をしていたので、見たことがありません」

 死んでしまった両親と姉に心の中だけで謝っておきながら、俺は少しだけうつむいた。
 俺の言葉を信じてくれたとは思えないが、そうか、と呟いたセンゴクが更に俺へ尋ねる。

「家族は、お前が悪魔の実の能力者になったことを知っているのか」

「俺が悪魔の実を食べたのは二週間くらい前で、両親と姉は半年くらい前に死んだので知りません」

 事実をしっかりと口にすると、少しだけ目の前の相手が動揺したのが分かった。
 改めて顔を上げれば、先ほどまでと同じく厳しい顔をしているセンゴクの目が、少しばかり和らいでいるようにも見える。
 仏とか言われてるだけあって、センゴクはやっぱり優しいらしい。
 とすると、このまま行けば俺は解放されるんじゃないだろうか。
 そう把握して、俺は言葉を続ける事にした。

「それで、あちこちを旅するのももうつらかったから、ひとところに落ち着いてひっそり生きてこうと思ったんです。悪魔の実を食べてしまったから、船に乗るのも不安がありましたし」

 実際まだ海に落ちたことはないけど、やっぱり俺は泳げないんだろう。もともとそう得意ではなかったけど。

「ようやく住み込みの仕事を見つけて、今日も昼から仕事だったはずで、食品の買出しに行ったらこちらの大将青雉とお会いしまして、なぜかここまでつれてこられる事になりました。戻ってもたぶんクビだろうと思いますが、早めに戻って謝りたいので帰らせてください」

 最後まで一息に言うと、センゴクの視線がじろりと俺の隣を見やった。
 それを追いかけるように傍らを見上げると、青雉がちょっと恨めしげに俺を見下ろしている。いや、お前が悪い。

「それについては申し訳なかった。心より謝罪する。だが、もう少し聞かせてもらいたい。……なぜ、黄猿を知っていた?」

 センゴクがそう聞いてきて、俺は口を閉じた。
 なぜって、そんなの『知ってる』からに決まっている。
 なんと答えたものか、と悩んだ俺の真横から、ひんやりとした空気が漂ってきている。明らかに青雉の方だ。
 同じような威圧感が逆側からも漂っているから、黄猿も今の青雉くらい怖い顔をしているんだろう。
 嘘を吐いたって追求されるんだろうと分かっているけど、ちゃんと答えても頭がおかしいと思われそうだし、下手をすれば監禁なり投獄なりされそうだと思って、俺はとりあえずのごまかしを口にした。

「その……ピカピカの実? の能力を使っているところを、見たことがあります」

 ジャンプでだけど。
 いつだ、という問いにはずいぶんと前だと答えて、どこでだ、という問いには海の上です、と答えた。
 本当は確か陸地だったけど、まぁいいだろう。
 俺のことを見つめたセンゴクが、小さくため息を吐いてから、これが最後だ、と口にする。

「お前は海賊か?」

 単刀直入すぎる問いかけに、俺は首を横に振った。
 マルコは俺を海賊だと言ったけど、俺にはその資格も無かったし、白ひげの船から逃げ出した俺が今もなお海賊だと名乗っているだなんて、あの船の誰も思っていないに違いない。
 もう一度あの船に乗れるはずもない俺は、だからやっぱり海賊じゃない。

「違います」

 きっぱりとそういった俺は、まっすぐにセンゴクを見つめ返した。



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