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 船が出港した。
 次の島は、話に寄れば冬島らしい。
 まだ春島の気候の区域な所為か、風はずいぶん温かだ。
 波を掻き分けて進むモビーディックの甲板で、俺は目的の相手を見つけた。

「ティーチ」

 近寄って呼びかけると、くるりと相手がこちらを振り向く。
 俺よりずいぶん上背のある相手へ近付いて見上げれば、黒い髪で黒い髭のティーチが、俺を見下ろした。

「おうナマエ、どうしたんだ?」

「他の人には内緒で教えて」

「ん? 何をだ」

「悪魔の実」

 端的に答えを返すと、ティーチが怪訝そうな顔になる。

「……なんでおれに聞く?」

 問いかけはもっともだったので、俺は用意していた答えを返した。

「ハルタに聞いた。ティーチが詳しいって」

 これは事実なのだから、ティーチがそれとなくハルタに聞いたって問題はない。
 俺の言葉に不審なところは無かったのか、そうかと答えたティーチが、何を聞きたいのかと俺へと尋ねてくる。

「見つけたんだけど、何の実か分からない」

 だからそう答えると、良かったな、とティーチは笑った。
 どう見たって人のいい笑顔だ。
 これがヤミヤミの実を前にしたら友達を殺せる人間の笑顔なのだから、信用ならない。
 けれどもそれは、今目の前の相手を騙そうとしている俺にも言えることだ。 

「で、持ってきてるのか?」

「ん、隠してる」

「そうか……どんなやつだ?」

「丸くて、ブドウみたいなのがいっぱい集まったみたいなやつ。つんつん」

「ほォ。色は?」

「紫色。あ、むしっちゃったけど、葉っぱは緑だった。模様とかはなかった」

「…………」

 できる限り図鑑で見たヤミヤミの実を思い浮かべて答えると、ティーチが少しばかり押し黙った。
 けれどもそれに気付かないふりをして、その顔を見上げる。

「見なくても分かる?」

 そうっと問いかけると、俺の顔を見下ろしたティーチは、あァ、と小さく声を漏らした。

「ちょっと実物を見てみなけりゃわかんねェなァ。そうだ、ナマエ、あとで見せてくれねェか。……今日の夜なんてどうだ」

 囁くような声は小さくて、まるで内緒話でもするようだ。
 ここまでは俺の狙い通りだ。
 落とされた囁きに頷いて、場所はどうしようか、と俺は少しだけ考えた。
 どうせなら、あまり人目につかないところがいいだろう。
 きちんとヤミヤミの実に仕立てたつもりだけど、じっくり見られてもすぐには判別できないほうがいい。
 だとすれば、やっぱり船内よりは船外だ。明かりが少なければ、それだけ分かりづらい。

「じゃあ……夜。えっと、船尾?」

 そこで構わないかと尋ねる気持ちで見上げると、ティーチが目を細めた。
 にかりと笑って、しっかりと頷く。

「おう、分かった。それじゃあ夜に船尾でな」

「ん」





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