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 この世界は、俺が知っている『地球』ではないらしい、というのがこの無人島で生き始めた俺が辿り着いた結論だった。
 何せ、見たことのない果物が生り、見たことのない鳥が飛び、見たことのない魚が泳ぎ、見たことのない化け物がいるのだ。
 ちなみに『化け物』は海にいる。鯨よりでかそうな、明らかに肉食っぽい生き物だった。
 アレを見てから、俺は海に入るのは極力取りやめたくらいだ。ばくりといかれてはたまらない。
 それでも、毎日必ず浜辺へ行くのが、俺の現在の日課となっている。
 浜辺にはいろんなものが流れ着くからだ。
 流れ着いた物で使えるものは使うし、使えないものは端に寄せておくのだ。
 65日前に流れ着いた死体から頂いたサンダルで砂を踏みつけて、波うち間際を歩く。
 そのまま足を動かしてた俺は、そこにあったものに顔をしかめた。
 波打ち際に、何かが転がっているのだ。
 どう見ても、それは人の形をしていた。
 また死体か。
 二ヶ月前に埋めたばかりだってのに、また流れ着くなんて思わなかった。その前は確か俺がここへ来て100日目くらいだったはずだ。
 人間の死体なんて、何度見たって嬉しいものでもない。
 それでも放置していたって誰かが片付けてくれるわけでもないし、何より俺にとっては大切な物資をお持ちなわけだから、俺は仕方なくその可哀想な誰かへ近づくことにした。
 ざばんと押し寄せては引いていく波が、死体の服を波打たせては離れていく。
 砂の上に落ちているその誰かは、両手を前で拘束されていた。金属じゃない、石造りみたいな感じの手錠が掛けらていた。
 間に鎖などの余裕が無いやつらしく、ぴたりと手首がくっついてしまっている。
 その体の横には、割れた木の板がいくつかあった。
 木の板に乗せて海にでも落とされたか、船が沈没でもしたのかもしれない。手が不自由じゃ、泳ぐことだって出来なかっただろうな、と俺はぼんやりと思った。
 犯罪者だったんだろうか。
 金髪のモヒカンなんて、確かに悪そうな感じだ。
 でも、死んだら誰だって仏様ってやつだろう。
 とりあえずそっと手を合わせてから、埋葬前に持ち物を確認しようと屈み込み、手を伸ばす。

「…………ぅ……」

 そうして聞こえた声に、俺は目を見開いた。
 また波が押し寄せて、砂の上に横たわる体を撫でていく。
 顔の辺りまで満ちた海水に、目の前の眉間にわずかに皺が寄ったのを、俺は見た。
 無人島生活、296日目。
 俺が初めて遭遇した生きている人間は、どうも犯罪者らしい漂流者だった。




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