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12




 午後は俺の雑用があるからと、昼食に軽食を買ってからモビーディック号へ戻った。
 顔中を汚しながらそれを食べていた子供をマルコへ預けて、俺は船長室へと足を踏み入れていた。
 ようやく起床したらしい白ひげへ、図鑑で読んだ内容と先ほど島へ降りて聞いたことも含めて、『情報』として提供する。

「……なるほどなァ……まだまだ、この海にはおれの知らねェことが山ほどあるもんだ」

 俺が知っている海賊の中でも随分と年配の白ひげがそう言って、自分の膝に肘を置いて頬杖をついた。
 数日で擬態を解くらしいと告げてから、俺は白ひげを窺う。
 世話をしろと俺へ言ったのは白ひげだが、ただの植物であることがわかって、ほんの数日で元の姿に戻ってしまうあの子供を、このままモビーディック号に乗せていてくれるだろうか。
 もしもそれなら船から下ろしておけと言われたら、港町に宿でも借りて、ぎりぎりまでは俺も子供へ付き合うことにしよう。
 そんなことを考えた俺の視線を受け止めて、軽く眉を動かした白ひげが笑う。

「何を心配していやがる。中身はガキの頃のマルコと同じなんだろう、それなら『あいつ』もおれの息子だ、何も遠慮することァねェ」

 そうしてそんな懐の深いことを言われて、よかった、と少しばかり息を吐いた。

「『リリカモドキ』には群生地があるらしいから、発芽したらそこに植えてやりたいんだ」

 それまで出航を待ってもらえたら、と続けた俺へ、ん? と白ひげが声を漏らした。
 不思議そうな声音に言葉を止めて視線を注げば、不思議そうな顔をした白ひげがほんの少しばかり首を傾げる。

「何だ、連れていかねェのか?」

 寄越された言葉は、意外だ、とでも言いたげな声によって紡がれていた。
 首を横に振って、俺は答える。

「グランドラインでは、何が起きるかも分からないから」

 モビーディック号が進むこの大海原は、『グランドライン』と呼ばれる常識の通じない海だ。
 異常気象も異常事態も当たり前のこの海で、たった一鉢の植物を連れて行ったとして、大事に育てられる自信もない。
 枯れさせてしまったら可哀想だ、と呟いた俺に、そうか、と白ひげが頷いた。

「まァ、それはお前とマルコの好きにすりゃァいい」

 そうして落ちた言葉に瞬きをして、マルコ、と今紡がれた名前を繰り返す。
 どうしてここで、今はあの子供と一緒にいるだろうマルコの名前が出るのだろうか。
 多分不思議そうな顔になっただろう俺を前に、グララララ、と白ひげが笑った。

「『あいつ』を連れて帰ったのはマルコだろう。この船では、見つけた『宝』は見つけた奴の物だ」

 単純明快なルールを紡ぐ白ひげは、どうしてか楽しげな顔をしていた。




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