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突発(逆トリ) (1/3)
このネタより、トリップ主とマルコの現代逆トリップ



 マルコがマルコにとって知らない世界にやってきて、もう一週間が経つ。
 どうしてかこの世界を知っていて、一緒にこの世界へとやってきたナマエが住んでいたという家が、今のマルコとナマエの住処だ。

「よしマルコ、今日は何が食いたい?」

「つっても、そう料理できねェだろうよい」

「サッチほどじゃないけどちょっとは出来るだろー、そう言うなよ」

 けらけらと笑ったナマエがマルコを率いるように一歩先を歩いて、マルコはそれを追いかけた。
 男二人で歩くスーパーマーケットは、昼を過ぎているからかそう人はいない。昨日の夕方来た時とは違う様子にきょろりと周囲を見回したマルコを見やって、平日だからな、とナマエはよく分からないことを口にした。
 ナマエはもともと、この世界の人間であったらしい。
 どうやってかは分からないがマルコのいるあの世界まで来たナマエは、七年ぶりだというのにこの世界には詳しくて、今マルコが使っている金も食料も住処も服も、全部がナマエが用意したものだ。
 今着ている服や帽子だって、ナマエがこの世界へきた初日にマルコへ買って寄越したものだった。マルコは別にナマエの古着でいいと言ったが、おかしなことにナマエの家にはナマエの衣服は無かったので難しかった。
 そう、ナマエの家には何も無かった。
 服も、食料もだ。家具だって必要最低限で、ガランとした部屋にマルコは戸惑った。
 だって、ナマエはどちらかといえば片付けの出来ない方であったはずだ。苦情を寄せられたイゾウが時々言っていたことを、マルコはちゃんと覚えている。

「じゃあマルコ、鶏肉なんてどうだ? あ、共食いになっちゃうか……だっ!」

「なるわけねェだろい。殴るよい」

「殴ってから言うのは酷い」

 ふざけたことを言うナマエを黙らせるべく頭を叩いたマルコに、ナマエがぶうぶうと口を尖らせる。
 いい年した大人の表情じゃないだろうと、それを見つめるマルコには呆れが浮かんだ。

「いいからさっさと買えよい」

「おう。ああ、じゃあこれにすっか」

 マルコの言葉に頷いて、ナマエはさっさと適当な食料を籠に入れる。
 マルコにはあまり見慣れないラッピングの鶏肉が籠の中で存在を主張して、更に進んだ場所で放り込まれた酒瓶がその隣に並んだ。

「これも買えよい」

「はいはい。入れとけよー」

 酒の並んだ棚横にあったつまみを指差したマルコに、ナマエは気にした様子も無くそう言う。
 値段くらい見てから答えろよい、と告げつつ、マルコはつまみの棚を少しばかり眺めた。
 ナマエ曰く、この辺りの地域は『日本語』と呼ばれる言語が書き文字の主流であるらしい。
 海軍がよく使っている文字に似たそれはマルコが読むには少々難解だったが、理解できないほどではない。
 数字は似たようなものだったし、ナマエの説明によれば通貨単位での齟齬もそう無いようだったから、とりあえず安いものを選んでナマエの持つ籠へ入れる。

「値段なんてそんな気にしなくてもいいって。少ししか変わんねェし」

「ちりも積もれば山となんだよい。大体、全部お前の金じゃねェかい」

 自分の金ならそれほど気にせず買い物も出来るだろうが、人の金で散財できるほどマルコの神経は図太く出来ていないのだ。
 マルコの主張に、いいのに、とナマエが笑う。

「使ってもらったほうが金だって嬉しいさ」

 そんな風に言って、よしレジに行くか、と足を動かすナマエの後を、マルコは追いかけた。
 この世界にきてから、ナマエは少し様子がおかしい、とマルコは思っている。
 いつだってへらへらとしていて緊張感の無い顔をしているが、それだって今はどこか強張っているときがある。
 ナマエは元々この世界の人間だ。
 そして、どうしてかマルコのいた世界に来ていた。
 白ひげ海賊団に入って七年、一度もマルコはナマエからこの世界の話を聞いたことがない。
 同じ隊の隊長であるイゾウには話していたのだろうか。
 少し考えてみるが、イゾウにそんなそぶりがあった気はしなかったとマルコは結論を出した。
 もしかしたら隠していたのかもしれないが、それよりもナマエが口にしなかった確率のほうが高いだろう。
 だって、ナマエには帰る方法を探している様子が微塵もなかった。
 そう、恐らくナマエは、この世界に帰ろうなんて思っていなかったのだ。
 だが、それはどうしてなのだろうか。
 ここが元々生きていた世界ならば、この世界にはナマエの知り合いも数多くいるはずだ。
 大所帯の白ひげ海賊団で七年も過ごしていたのだから今はどちらが多いとも言えないかもしれないが、わずかでも血の繋がった相手がいるのは、きっと、ナマエにとってはこの世界だけだ。
 マルコは元の世界へ帰りたい。何故なら、あの世界こそがマルコにとって生きる場所だからだ。
 けれども、ナマエは一体どうなのだろう。
 ここへ残りたいのだろうかと考えれば、少しばかり胸の奥がざわついた。

「マルコ、どうかしたかー?」

 いつの間にかマルコの足は止まっていたらしく、ふと振り返ったナマエが首を傾げる。
 何でもないとそれへ返事をして、浮かべていた思考を振り払ったマルコは改めて足を動かし、ナマエの後を追いかけた。







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