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突発(逆トリ) (2/3)



 ナマエの作った料理を食べて酒を飲んで、なんだかんだと話していたら、マルコはいつの間にか眠り込んでいたようだ。
 それに気付いたのは傍らで何かが動いた気配を感じたからで、それと同時に真新しいタオルケットが掛けられて、マルコはほんの少しだけもぞりと身じろいだ。
 手に持っていた酒瓶が奪われて、更には小さな物音が続き、ほんの少しだけ目を開ける。
 マルコの視界に、酒盛りを終えて片づけをしているナマエの背中が見えた。
 どうやら、つぶれたのはマルコだけだったらしい。
 皿や酒瓶を片付けるナマエの様子を後ろから少しばかり眺めつつ、マルコはそんなことを考える。
 目が覚めたのだから片づけを手伝えばいいのに、そうしないのはまだこの心地いい状態でいたいからだ。
 ずるい自分を自覚しつつもマルコが動かないでいる間に、二人分の食器やそれ以外を片付けたナマエは、小さなグラスに水を注いでから部屋へと戻ってきた。
 そうしてマルコの横に腰を下ろして、少しばかり身じろぎをする。
 手を伸ばしたらしいナマエが壁に設置されている引き出しを引っ張ったのに気付いて、マルコは少しばかりナマエを窺った。
 ナマエの手がごそごそと引き出しの中をあさり、そうして取り出したものを自分の前へと引き寄せる。
 マルコが眠っていると思ったからか、無防備に晒されたそれをマルコは眠ったフリで見上げた。
 白い封筒のそれは、確か、マルコがナマエに連れられてこの家にきたその日にナマエが隠した手紙のようなものだ。
 部屋の真ん中に置かれたそれに首を傾げたマルコが手を伸ばすより早くそれを取上げたナマエは、くしゃくしゃに曲げたそれをそれでも捨てずにとっておいたらしい。
 この部屋はナマエが借りている部屋だといっていたのだから、その手紙を書いたのは恐らくナマエだろう。
 何の手紙だったのかと聞いても教えてもらえなかったそれを持っているナマエを見やっていると、マルコの視線に気づいた様子も無くそれを元の場所へ戻したナマエが、こくりとグラスの水を口に運んだ。
 それからその視線が自分のほうへ向けられたのを感じて、マルコはすぐに目をしっかりと閉じる。
 何となく眠ったフリを続行したマルコへ向かって、暗闇の向こうからナマエが囁いた。

「……ごめんな、マルコ」

 小さな声は、確かに謝罪だった。
 一体、何に対する謝罪なのだろうか。
 マルコにはよく分からず、けれど眠ったフリをしているために問いかけることも出来ない。
 言葉を零した後で立ち上がったナマエは、そのまま部屋を出て行った。途中でタオルと着替えを取り出していった様子からして、恐らく風呂に入るのだろう。
 耳を澄まして、バスルームの扉が閉じる音までを聞いてから、マルコはむくりと起き上がった。
 自分以外には誰もいない殺風景な部屋で、タオルケットをぽいと押しやる。
 そうしてマルコが向かったのは、先ほどナマエが手紙を入れていた、あの引き出しだった。
 少し開いているそこを引っ張って、隠すように押し込まれた白い封筒を簡単に見つける。
 表には何も書かれておらず、裏にも何も書かれていないその手紙には封がされていなかった。
 だから、マルコの手はさっさとそれを開いて、中身を取り出す。

「…………なんだよい、コレは」

 そうして開いたそこに記されていたのは、マルコの予想通り、確かに『ナマエが誰かに宛てた手紙』だった。





 


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