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こいの犯行 (1/3)
※『愛ある魂胆』設定で『致死量手前』の続き
※何となく赤髪海賊団クルーは異世界トリップ主でミホークが好き



「そう怒んなよ、ナマエ」

 何やらニヤついているシャンクスは、島にやってきたときからすでに酒の匂いをさせていた。
 赤髪海賊団が運び込んだ酒と食事が古びた城へと運び込まれて、宴が始まり、静かだった城の中はすっかり騒がしい。長テーブルは横に避けられて、甲板でやるようにあちこちに思い思いに座っていた。
 笑いながら肩をばしばしと叩かれて、痛いと身を捩る。

「お頭、俺が怪我人だって分かってます?」

 酔っ払いを睨み付けて、俺はぐいとすぐそばに座っている相手を押しやった。
 そこまでの大怪我はしていないが、寿命を縮めたヒューマンドリル達との追いかけっこは、間違いなく俺の体に傷をつけた。
 頬の傷が多分一番目立つだろうが、体だってあちこちに打撲があるのだ。

「俺だけあんなとこに降ろして! 絶対、今日は死ぬと思ったんですからね」

「んー? でも生きてるじゃねェか。鷹の目がいるんだから大丈夫に決まってらァ」

 ドキドキしただろ、とにんまり笑っているシャンクスの発言に思わず眉を寄せてしまう。
 何故だろうか。この船長の発言が、『あれはわざとだった』と言っているように聞こえる。

「で、それよりよ」

 言葉の途中でぐいとその右手が俺の肩を捕まえて、自分の方へと引き寄せた。
 俺の頭が逃げないようにそのまま腕で俺の頭を自分の体へと押し付けて、まるで意味のない位置で掌をさらしてわざとらしく内緒話の姿勢を作ったシャンクスが、こそりと言葉を零す。

「鷹の目の奴の機嫌がいいじゃねェか。何したんだ? ナマエ」

「!」

 ニヤニヤと楽しそうな顔をしながらの問いかけに、思わずびくりと肩が跳ねた。
 シャンクスが『鷹の目』と呼ぶ海賊は、今は俺達から少しだけ離れたところに座っている。
 ちらりと見やった先で、騒がしい赤髪海賊団に囲まれてもひときわ静かなその様子はとても優雅で、ついでに言えば確かにシャンクスの言う通り、機嫌がよさそうに見えた。
 何故かと言われればそんなこと、俺には心当たりが一つしかない。
 けれどもそれをこの傍らの男に話してしまったら、間違いなく瞬く間に仲間の内に広がるだろう。
 そうでなくても、鷹の目の前に連れて行かれて目の前で披露しろと言われる可能性は、十分にある。
 数時間前のあの時は何とか死ななかったが、大衆の面前でそんなことをさせられたら、間違いなく恥ずかしくて死んでしまう。

「………………別に、何も?」

 だからこそそう言葉を放って鷹の目から視線を外し、かといってシャンクスの方を見ることも無く明後日の方を向く。
 少しばかり黙ったシャンクスが、どうしてかくくくと小さく笑い声を零した。
 俺の頭を捕まえていた右腕が動いて、その手がぐいと俺の右耳を引っ張る。

「いっ」

「こんだけ真っ赤にしててよく言うぜ」

 楽しそうな声音に、俺は自分の失敗を悟った。
 そして、まァナマエは恥ずかしがり屋だからな、と言葉を落としたシャンクスが、ぱっと俺から手を離した。
 床に置いていた酒瓶を手に取り、酔っ払いの癖にふらりと立ち上がる。

「お、お頭? つまみなら俺がとってきますけど」

「ああ、お構いなく。やっぱここは鷹の目から聞くべきだろ」

「ひっ」

 恐ろしい発言に、思わず歩き出そうとしたシャンクスに手を伸ばした。
 けれども俺が掴んでも気にせず歩いていく酔っ払いに、引き留められないと気付いて手を離す。
 縋りついて足を止めることは出来そうだが、そんなことをしたってシャンクスが鷹の目を呼べば終わりだということくらいは、俺にだって理解できた。
 何と言うことだろうか。お頭を止める術がない。
 近寄るシャンクスに気付いた鷹の目が、ちらりとその目をシャンクスへと向ける。
 周りの仲間達はシャンクスが座りやすいようにスペースを開けてしまっていて、どかりとシャンクスがそこに座り込むのを見届けたところで、俺はこそりと膝で立ち上がった。
 出来る限り身を低くして、そろりと広間から出るために移動する。
 問題を後回しにするだけのような気もするが、とりあえず今はこの場から逃げ出した方が俺のためだと、俺は理解した。







 シッケアールの城は、思ったより広かった。
 広間から抜け出した後、どこで時間を潰すか考えてとりあえず階段を上ったのは、俺が最初に通された部屋がそこのあたりだったことを思い出したからだ。
 よそ様の家の中を勝手にうろちょろするなんて何とも行儀の悪い話だから、せめて通された部屋に隠れていようと思ったのである。
 俺の傷の手当てを少ししてくれたあの女の子の部屋では無いだろうし、生活感がなかったからひょっとしたら放置してある客室だったのかもしれない。ほとぼりが冷めるまでは隠れていても大丈夫だろう。
 そんなことを考えつつ階段を上って、先の通路を進む。
 そうして角を曲がろうとしたところで前に出すべき足を後ろに引いたのは、自分の前へやってくる何かを感じたからだった。

「ん? 誰だお前」

 怪訝そうな声が落とされて、すぐに顔をあげる。
 そこには緑色の短髪の男がいて、特徴的なその姿に、あ、と思わず目を丸くした。




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