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致死量手前 (1/2)
※何となく赤髪海賊団クルーは異世界トリップ主
※ミホークと赤髪クルー
※『愛ある魂胆』の続き



 俺は今日、死ぬかもしれない。
 真面目な顔で馬鹿なことを言いたいくらいには、俺は現在いっぱいいっぱいだった。
 つい今朝がたまでは、レッド・フォースの上でいつもの通り生活していたはずなのだ。
 だというのに、起きてきた俺を見つけて『やっと起きたか』と笑ったシャンクスが、突拍子もないことを口にした。

『しばらく手ェ離せねえっつうからよォ、こっちから行くことにしたんだが、ナマエ、お前ちょっと先に行ってこれだけ届けてきてくれ』

 にかりといつも通りにこやかに笑っての言葉に、訳が分からないまま身支度を整えさせられ、俺が放り出されたのはどことなく暗雲立ち込める島の入り江だ。
 気を付けて行けよと声を掛けられ、何やら荷物まで持たされて改めて周囲を確認した俺が、ここが『どこ』なのかに気付いたのはレッド・フォース号がどうしてか入り江から離れていった後のことだ。
 クライガナ島とは、シッケアール王国なんていうどうしようもなく湿度の高そうな国があった島である。
 そして俺を取り囲んできたヒヒたちは、そこに生息する好戦的な生き物たちだ。
 当然俺に勝ち目はなく、なんでこんなところに一人で放り出したんだと絶叫しながら逃げまどって、今の俺はヒヒたちの見当たらなかった場所の、岩と岩の隙間なんて言うひどい空間に逃げ込んでいた。
 逃げ続けてとても疲れた。
 時刻はそろそろ昼過ぎだろうか。

「……帰ったら、一回怒る」

 こんな場所に俺を一人で放り出した誰かさんを思い出し、俺は低く声を漏らした。
 船長を殴るわけにはいかないが、なじることくらいは許してもらえないだろうか。
 なんで俺だけ、と上げた声を聞いたシャンクスは遠ざかる船の上で何かを言っていたようだったけど、聞こえなかったからその釈明は無効だ。
 ただとりあえず、送り先すら明確じゃなかった『届け物』の宛名が誰なのかは、さすがにもう把握している。
 この島にいるのは、恐らくたぶんきっと、ジュラキュール・ミホークだ。

「…………」

 なんとなくその顔を思い浮かべただけで心臓が早く脈打った気がして、俺は片手を自分の胸元に当てた。
 俺は男だが、同性である鷹の目が好きだ。
 これはどうしてかレッド・フォース号の上では周知の事実で、たぶん仲間を喜ばせようといろいろな画策をしてくるシャンクスや他のクルーのせいで、鷹の目と俺は少しばかり親しくなった。
 まさか告白はできないにしても、酒を飲みに来たときは時々近くへやってくるし、島で遭遇した時だって声をかけてくれる。
 鷹の目から射るようにまっすぐに向けられる視線を受け止めるのが恥ずかしくて、しかし見ないで下さいと言えない俺は、身動きがとれるときならルウやヤソップやシャンクスを間に挟むことにしている。
 そうでないときは挙動不審になってしまうから、たぶん変な奴だと思っているだろうに、鷹の目は小さなことには構わない器のでかい海賊だ。
 そんな相手に、俺が、一人で届け物をする。
 その事実は先ほどヒューマンドリルに襲われたときと比べ物にならないくらいの速さで心臓を脈打たせ、少し息が苦しいくらいだった。

「……死ぬかもしれない」

 先ほどの想いを思わず口で呟いてから、俺は小さくため息を漏らす。
 しかし、死ぬにしてもせめて、こんな何もない場所ではなくて鷹の目の顔を見てからがいい。
 ヒヒたちが夜行性かどうかは知らないが、闇に紛れればもう少し動きやすくなるだろう。
 そう考えて、日暮れまでの時間を確認するために岩の隙間から外をうかがおうとした俺は、ぬるり、と岩壁からはみ出てきたものに目を見開いた。

「…………へっ」

 白い、ひょろ長い塊が、唐突に岩壁から生えている。
 ふわりと漂いながら体をくねらせ、振り向いたそれは何とも間抜けな顔をしていた。
 実体の感じられない動きで近寄ってきたそれに思わず身を引いた俺を、それが見下ろす。

「…………あ……幽霊?」

 なんだかどこかで見たことのある、愛嬌のある顔だ。
 なんだったっけか、と思いながら声を漏らした俺を黒くて丸いその目で見つめた白い物体が、それからまた身じろいだ。
 どこからともなくホロホロホロホロと高い声が聞こえて、唐突なそれにびくりと体を震わせる。
 そのうちに岩壁からめり込んできた相手がまた岩壁へ入って消えていき、思わずそちらを見送ってしまった。

「……な、なんだったんだ……?」

 すっかり一人きりになってしまった岩と岩のはざまで、ぽつりと声を漏らす。
 幽霊を見るだなんて体験をしてしまったが、まったく意味が分からない。
 それにやっぱり、さっきの奴は見たことがある。
 そう考えて軽く首を傾げた俺の目の前で、ずぱん、と鋭い音がした。
 軽く岩壁が揺れ、そして俺の目の前で、俺を隠していた岩たちの一部が外向きに倒れていく。
 俺のつま先数センチの大地にわずかな切れ込みが入っていて、倒れていった岩にもきれいな断面図があるという事実に、俺は目を瞬かせた。
 こんなことができる人間、俺が知っている中にはそういない。

「……それは、嵌まっているのか?」

 手助けが必要か、なんて言いながら俺の目の前に降り立った相手は、相変わらずまっすぐに俺を見下ろしていた。







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