▼ 背中と背中 ∵
「名前、なんていうの?」
「……恭一」
「キョーイチくん。僕、タカシ。天の詩って書いて、天詩」
なんなんだ。
何で見える?
だってまだ輪に触っていない。
それに、俺の姿が見えたら、死ぬはずだろう。
「間違っても天使なんて呼ばないでね。恥ずかしいから」
「そういうことじゃない」
ホームルームの始まる前に、共に屋上に来たこいつのマイペースぶりに、俺は頭を抱えて唸った。
何なんだ、何で見えるんだ? こいつには、死神に抵抗できるっていう、そういう厄介な能力でもついてんのか。
相変わらずのマヌケ顔。そんな特殊な力持った奴には、見えないけどな……。
「まあ……とにかく、座れ」
学校の屋上の生ぬるい風を浴びながら、俺は顔だけ動かして、天詩に座るように指示した。
天詩はすぐにニコニコしたまま頷き、俺の前に腰を下ろす。
「で、お前、何者なんだ?」
俺は不可解な現状に顔を顰めたまま、首を傾げた。
すると、天詩はまだ気の抜けたような顔で笑いながら、また頷く。
「だからタカシ。天使じゃないよ。天の詩って書いて」
「そうじゃない」
また同じことを繰り返す天詩を、俺は手を挙げて止めた。
なんだこいつ、調子狂う。ついまた頭を抱えていたら、天詩が俺を覗き込んできた。
「キョーイチくんは、転校生? なんで私服なの?」
「俺は……」
俺は体を仰け反らせ、天詩から離れる。
なんでって……。
「死神……だから」
呟くようにそう言ったら、天詩は突然目を見開き、パンッと手を叩いた。
「すごい! 初めて見たよ、本物!」
……そうだろうよ。
「ねえ、鎌とか持ってないんだ? なんで帽子かぶってるの? 浮ける? 飛べたりする?」
さっきの眠気はどこへやら。天詩は眠そうだったまぶたを思い切り押し上げて、切ることなく俺に質問をぶつけた。
「鎌なんて、持つかよ。死神だからかぶってんの。浮ける。飛べたりはしない。歩く」
にじり寄ってくる天詩を避けながら、俺は仕方なくすべての質問に短く答える。
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