▼ 背中と背中 ∵
「へえ!」
そのたびに天詩は目を輝かせ、好奇心が溢れ出ているような声を出した。
「ねえねえ、じゃあ、角とか無いの? 火とか噴けたりする?」
天詩は懲りずに、俺ににじり寄りながら次々と質問を吐く。
一方俺は、うんざり。
まるで珍しい動物にでもなった気分だ。俺はやれやれとため息をつき、天詩に背を向けた。
その途端、ぴたりと天詩の声が止む。……やっと暴走が止まったか。
今度は安堵のため息をつき、俺は顔を伏せる。
すると、目に飛び込んできたものは、俺の腹の中にある、天詩の驚いた顔。
「何やってんだよ」
「うわっ、生ぬるい」
天詩が苦笑いして、俺の中から起き上がった。
「当たり前だろ、俺は実体じゃないんだから。太陽の光も通すぜ」
「ふうん……本当に通り抜けるんだ」
天詩はそう言って、俺の体の中へ腕を突っ込んでくる。
俺は、肝臓の辺りで動く天詩の腕をいらいらと睨みながら、重いため息をついた。
……人の話を聞いちゃいない。
「じゃあ、このぐらい」
天詩は相変わらずマイペースに動き、今度は俺の背中に背中を当てるように、背中合わせで腰を下ろした
触れることができない背中と背中が、合わさって生ぬるい感じを俺たちに味合わせる。
「いいのかよ。授業サボって、こんなところに居て」
「いいよ、学校つまらないから。それに、僕、そろそろ死ぬんだろ」
背中合わせの天詩の言葉に、俺はピクリと反応した。
……なんだ。
「知ってるのか」
「うん、自分のことだもん。なんとなくね」
天詩が少し体を揺らし、にやけたような声で言う。
「最後に貴重なものが見れてよかった」
「貴重なもの? なんだよ、それ」
「キョーイチくんだよ。本当に死神なんでしょ」
「うん。まあ、そう」
「キョーイチくんも、元は僕らみたいな人間だったの?」
突然の質問に、俺は振り返りかけた。
prev / next