▼ 背中と背中 ∵
さて一仕事。
とは言っても、俺はこいつの頭の上でぼうっと光っている輪に触れればいいだけ。
そうすれば、こいつは俺の姿を見ることになる。魂に直接触れるんだからな。
そして気付けば、あの世逝きの電車の中ってわけだ。
俺は慣れた仕事の簡単さにため息を零し、ぼんやりと俺を通して青空を向いているそいつの頭の輪に、手を伸ばした。
その時、
「海賊……」
そいつが、ぽつりと呟いた。
寝ぼけ眼のままの目は、ぼんやりとしていても、まっすぐに俺を貫いている。
俺は思わず、後ろを振り返った。
見えるのは、清々しく、そして憎々しい晴れた青空のみ。海賊? どこに。
「君じゃないの? その帽子」
「違うだろ、これはカウボーイ」
は?
さらりと自分でそう返し、そしてそんな自分に唖然とした俺に、そいつは「あぁ」とまぶたを押し開く。
「そうか、そうだよね。これ、カウボーイの帽子だ」
少年は納得、というように頷き、俺を指差している。
そう。多分、俺を。
「何? それ、コスプレ?」
少年はほおづえをつき、力なく笑う。
な……何だ? 俺に言ってんのか?
俺は無言で自分を指差したまま、また振り向いた。
「君だよ、そう」
少年が言う。
……俺?
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