第九章 紅茶伯爵と最後の約束
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 その間にも、ぐちぐち頭に規則やら何やらを浴びせられた。跡継ぎとしての自覚を持てだの、国民への恥だの。
 そんなもん、望んでなったわけじゃない。
 願いぐらい、自分の、未来ぐらい……――自分で叶えたいものじゃないか。
 両親に行き着く一歩手前で、ダージリンはぴたりと足を止めた。
 そして足元を見つめたまま、両手のこぶしを軽く握る。突然立ち止まったダージリンに、父親が重いため息を零す。
「ダージ、立場をわきまえろ。当分外出は許さん。反省しなさい」
 その言葉に、ダージリンの中に何かが湧き上がった。ダージリンは耐えるようにぎゅっとこぶしを握る。
 しかし、湧き上がる勢いのほうが勝ってしまった。ダージリンは顔を上げ、両親をめいっぱい睨みつけた。
「この、くそおやじ! 子供に嘘を教えるなよ! 子供にとっては大人の言うことがすべてなんだ! 何が平和な国だよ、何が愛溢れる国だよ! 嘘を教えることが正しいことなら、おれはそんな国の皇帝にはなりたくない!!」
 ダージリンは顔を顰め、噛み付くように大声で叫んだ。
 突然のことに、さすがに両親もぎょっと目を見開く。ダージリンは次に、目を腫らした母のほうへ向き直った。
「そんなにおれを縛り付けたいなら、自分で縄でも買ってきて首にくくりつけとけよ! ただし、おれが自力でその縄をくぐれるようになったら、あんたのご自慢の金ぴかドレスを全部残らず泥まみれにしてやるからな!!」
「ダージリン!」
 今まで聞いたことのなかった暴言の数々に、ついに父親が怒鳴り、そしてダージリンの頬を引っ叩いた。
 パン! と初めて頬を打たれる。熱にも似た感覚に、ダージリンは歯を食いしばり、そしてまた顔をうつむかせた。
 ぎゅっとこぶしを握る息子に、両親が思わず身構える。しかし、今度はとんでもない反論が出てくるどころか、ダージリンは両親に向かって深く頭を下げた。
「すいませんでした」
 今度は突然の素直な謝罪に、両親が動揺し、顔を見合わせる。
 ダージリンは顔を上げ、そして、しっかりと二人の親に眼差しを向けた。
「父さん、母さん、ぼくは、ちゃんと家を継ぎます。でも、医者にもなります。この足で駆け回った国ぐらい、自分の手で救ってみせます。どんなに反対されようと、この決意は、揺らぎません」
 強い意志を持ってそう言った真っ直ぐな瞳には、確かな輝きが満ちていた。




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