最終章 紅茶伯爵へ最初の手紙 ――一年の最後の月も半ばに入った頃、伯爵の屋敷へ一通の手紙が届いた。
メイドのニルギリが飛び跳ねながら届けに来たそれは、しっかりとした封筒に、几帳面そうな字で宛名が書いてあった。
裏返しても、差出人の名前はない。しかし封筒の端に押された印を見て、伯爵はすぐにその手紙の差出人に気付いた。
相変わらず自由に出入りしている甥のジョルジも、封筒を開ける伯爵の背後からそれを覗く。
ニルギリはわくわくと瞳を輝かせ、足をきちんとそろえて伯爵が読んでくれるのを待っていた。
手紙は、失礼な呼び名から始まった。
親愛なる変人伯爵さまへ
長い秋も終わり、ようやく我が国へも粉雪が積もり始めました。
おれは相変わらず、(やっぱりというか)毎日同じことの繰り返しをしています。
伯爵やニルは、体調を崩していないでしょうか。(ついでにジョルジも)
恐らくそんなことを心配しなくても、あんたたちは元気だと思います。
あの時はお世話になりました。母が礼儀にうるさいので一応言っておきます。
フォーシーズンズ・ガーデンでは、よくもあんなバカげたことをやらせてくれて、
どうもありがとうございました。
あの出来事は、嫌でも一生忘れないと思います。
今度、召使いたちを総動員して、あんたの屋敷の回りにぶさいくで泥だらけな
雪だるまを敷き詰めてやる予定です。
宙を飛ぶ雪玉には注意したほうがいいでしょう。覚悟しておけよ。
ダージリン・オータムナル
ようやく最後で名乗った名前には、わざとペンを折ったような乱暴なインクの染みまでついている。
三人は互いに顔を見合わせ、また面白い仲間が増えたねと、紅茶伯爵を中心に微笑みあった。
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