第九章 紅茶伯爵と最後の約束
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「だって、何でも叶うって言ったじゃないか! ニルだって、あんたは嘘をつかないって、言っていたのに……!」
 そう言っても、ニルも「わからないんです」と申し訳なさそうに首を振るだけ。
 たった今まで優しい暖かさに包まれていたダージリンを、凍てつくような絶望が包み込んだ。

 そんな、だって、たった一つの……たった一つの希望だったのに……――!

「こちらですよ」
 その時、聞き覚えのある声が、ローズ・ガーデンへ割り込んできた。
 それは、誰かに案内をする、伯爵のイヤミな甥、ジョルジの声。
 その声に、ダージリンは振り返った。バラのアーチを抜けて、ジョルジと、そして厳めしい軍服に身を包んだ男が数人、ぞろぞろと庭へ入ってくる。
 軍人らしき男たちは、それぞれ訝しげに辺りを見回していたが、硬直したダージリンを見つけると、とたんに驚いたように目を丸くした。
「殿下!」
 一人が思わず声をあげた。飛び出てきた呼び名に、ニルギリが驚いて声をあげる。
「殿下!?」
「たった今見つけました。えぇ、ジョルジ・グレイからの情報で。確かにダージリン殿下ですよ」
 ざわめく仲間たちの中で、王室警護官の一人が無線に向かってそう話しかけた。
 ジョルジは警護官たちに道をあけ、ダージリンに向かってふっと笑みを浮かべる。
 ダージリンはジョルジを睨みつけた。しかし、これから全力逃走する気力も体力もなく、ダージリンは肩を落とす。
 見つかってしまった。たった二日間の家出は、バカみたいなエンディングを迎えた。
 捜索隊員たちはほっと息をつき、「公開捜査にまでならなくてよかった」とぼやいている。
 ダージリンはうつむきながらそんな会話を聞き、それならもう少し逃亡して、殴ってボコボコにした奴らを驚かせてやればよかったと、そんなことを思った。

 でも、そんな必死の逃亡も、もう――終わりだ。

「殿下、さぁ、こちらへ」
 警護官がごつい腕を伸ばし、ダージリンの傷だらけの腕を引っ張った。
 ダージリンはそれを振り払い、不機嫌そうに顔を顰めたまま、伯爵を睨みつける。
 伯爵は驚くニルギリの隣で、さも平然とした表情をし、ただ突っ立っていた。
 この――変人。悪人。嘘つき野郎。やっぱり知っていたくせに。どうせ、からかわれていたんだ。
「ダージリン」
 ぷいっと背を向けたダージリンへ、ようやく伯爵が呼びかけた。


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