第九章 紅茶伯爵と最後の約束
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 ――秋の留まった冬に、雪が戻った。
 大粒の砂糖に似たふわふわの白い雪は、まるで祝福をしているかのように、優しく頬に降ってきた。
 静かに、静かに、音もたてず、粉雪が足元へ降り積もっていく。
 ダージリンは空を見上げたまま、すっとまぶたを閉じた。

 姉さん、もう、大丈夫だよ。

             *

 肌寒い空気を吸い込むと、ふっと体が浮き上がるのを感じた。
 不思議と、伯爵につままれたあの時より、ずっと違和感がない。
 まぶたを閉じたまま、おれは柔らかなその流れに身を任せた。
 あれほど熱く、苦しかった中も、今はもうすっかりぬるま湯程度になり、心地よい暖かさに包み込まれる。
 気が付けば――伯爵の屋敷、ローズ・ガーデンの中に、ぽつんと一人で立っていた。
「あ……れ……?」
 夢から突然現実に引き戻されたような感覚に、ダージリンは戸惑い、辺りを見回した。
 手には、すっかり小さくなってしまった金のスプーンがひとつ。そしてあれほど浴びていた砂糖の雪は、鼻先にちょっとついているだけだった。
 辺りは、相変わらずバラだらけの生け垣が並ぶ。ダージリンはスプーンを握りしめ、背後を振り返った。
 すると、そこには伯爵とニルギリが並んで立っていた。ニルは相変わらず背筋をしゃんと伸ばし、伯爵は目を伏せて、微笑みを浮かべている。
「ダージリンさん、お疲れさまでした」
 ニルギリがにっこりと笑い、そう言った。
 ダージリンはもう一度自分の手のひらに視線を落とし、少しでも変化がないかと、両手を裏返す。
 終わった――それじゃあ……
「願いは……叶った……のか?」
「いいや」
 ダージリンの呟きに、伯爵が答えた。
 その言葉に、ダージリンが顔を上げる。すると伯爵は残念そうに首を振り、きっぱりと言った。
「君の願いを受け入れることを、フォーシーズンズ・ガーデンが拒否してしまった」
「なんで!」
 ダージリンは目を見開き、伯爵に駆け寄った。しかし伯爵はまぶたを伏せたまま、ただ首を横に振る。


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