第八章 紅茶伯爵とウィンター・ガーデン
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 ダージリンは懐かしむような表情で空を仰ぎ、苦笑を零す。しかしすぐに腰に手をあて、ふんと鼻を鳴らした。
「さっきも言ったろ。雪のない冬なんてつまらない。それにさ、秋って季節の中で、一番たいくつな時期なんだ」
 ダージリンがそう言うと、ニルギリは「まぁ」と笑った。
 ダージリンはニルギリへ振り向き、そして巨大スプーンを担ぎなおす。
「雪合戦、しようよ。雪だるまも作ろう。この庭なら、きっと雪の城だってできる」
「では、街を作りましょう! すてきな街、小さいけれど、きれいな国を!」
 ダージリンの提案に、ニルギリはらんらんと目を輝かせた。
 二人はもう何度もやったティーカップの踏み台を作り、ダージリンがその上に上がった。
 そしてスプーンを突っ込む先は、たった一つ使わなかった巨大シュガーポットの中。
 その時、ちょうど二人の様子を見に、伯爵がウィンター・ガーデンから顔を覗かせた。
 ダージリンはその様子にニヤリとし、そして砂糖をすくったスプーンを振り上げると、伯爵に向かって思いっきりぶちまけた。
 突然の砂糖の襲撃にはさすがの伯爵もよろめき、唖然としてダージリンを見上げる。
「どうだ、甘党な伯爵さまにはぴったりの雪だろ!」
 ダージリンはいたずらっぽく笑いながら、スプーンの先を伯爵に突きつける。
 すると、伯爵はじわじわと口元をあげ、そして出会った頃のように、肩を上げて子供みたいににっこりと笑った。
「見事なスイート・ウィンターだ、ダージ!」
 頭から砂糖まみれの甘そうな伯爵に追い回されながら、ダージリンとニルギリは甘い雪を持って何度も夏の庭と冬の庭を行き来した。
 そして少しずつ、少しずつ、大粒の砂糖が秋色の冬の庭へまかれていく。
 時々砂糖の粒を頬で転がしながら、ニルギリもエプロンスカートにたっぷりと砂糖を乗せ、ぱっとウィンター・ガーデンへ振りまいた。
 ダージリンの金のスプーンからも、真っ白な砂糖が振りまかれていく。時々わざと伯爵に向かってまくダージリンに、伯爵も手のひらいっぱいの反撃を振りかけた。
 そうしているうちに、いつの間にか三人とも頭が白くなってきた。これじゃこっちがじじいになっちまう。ダージリンはそう思いながら、頭にのった砂糖を払い落とす。


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