第七章 紅茶伯爵とオータム・ガーデン
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 ずっと伯爵の側に居たニルの言うことだ。もしかしたら、秋のスイッチは本当にあるのかもしれない。
 そうこう考えていると、ふと、あの白いテーブルセットが目に入った。
 白――あれを染めてみようか。ダージリンはそう思い、テーブルセットへ歩み寄る。
 そしてテーブルの上にティーカップを置き、なんとなくテーブルの面を撫でてみた。木目の薄い木でできていて、特におかしいところはない。噛み付く猛獣に変化する様子もないし、もじもじと恥かしがる様子もない。
 ニルが残念そうな声をあげ、こちらへ帰ってくる。ダージリンは失敗したらしいニルをちらりと見て、次にテーブルセットの側にあった描きかけのキャンバスへ目を移した。
 うんざりするぐらい、きれいな真夏の絵。具合よく絵の具がにじみ、まるで絵の中に爽やかな夏風が吹いているようだ。
 秋の庭に、不釣合いな、夏の絵……――
 そうか――!
「これだ!」
 ダージリンはティーカップを持ち上げ、思いっきりその夏の絵に残りの紅茶をぶっかけた。
 紅茶がキャンバスに染み込む。するとそのとたん、まるで頭からセピア色の絵の具を流されたように、ダージリンの目の前が一瞬で紅茶色に染まった。
 キャンバスだけではない。青空は夕焼け色に、木々は緑から茶色に、足元の頑固な芝生までも、浜に流れ着く波のように、ゆっくりときれいな紅茶色に染まっていく。
 本当に、この世界に誰かが紅茶を零したみたいだ。まるで魔法のようなその光景を目の当たりにして、ダージリンもニルギリも、目を真ん丸くし、ぽかんと口を開いていた。
 ティーカップの底に残っていた茶葉が、まるで枯葉のように秋色に染まった夏の絵に舞った。それと同調するように、セピア色に染まった秋の庭へ、森の木々から枯葉が吹かれ、落ちてくる。
 二人はそろそろと向き合い、そして、互いに満面の笑みを見せた。

 オータム・ガーデン、修理完了。





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