第七章 紅茶伯爵とオータム・ガーデン
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「さぁ、あとはこれを秋の庭へまくだけだ。きっと、全部が紅茶色になっちゃうよ」
 期待を込めてそう言うと、ニルギリも「はい」と頷いた。
 二人で紅茶の入ったティーカップを持ち上げ、夏の色をしたオータム・ガーデンへ移動した。
 そして紅茶を覗き込み、ニルギリがちょんと指先で紅茶をつつく。ダージリンはその間に金のスプーンを持ってきて、それで紅茶を少しすくった。
 そして試しに、足元の芝生に淹れたての紅茶をたらしてみる。すると、芝生はくすぐったそうにもじもじと揺れた。
 葉を流れ、紅茶が地面へしみこんでいく。しかし、青々とした葉はいっこうに紅茶色に染まろうとはしない。
「おかしいな……これでいいと思ったのに」
 ダージリンはそれを覗き込みながら、不満げに呟いた。
「もう少し試してみましょう。もしかしたら、ちょっとしたコツですとか、仕掛けがあるのかもしれませんよ。お屋敷の灯りのスイッチみたいに」
 そんなダージリンを覗き込み、ニルギリがそう提案する。
 なるほどな。ダージリンはニルギリの提案に頷き、互いにあちこちへ紅茶をまいてみることにした。
 しかし、いくら芝生に紅茶を振りまいても、立ち並ぶ木の幹にぶっかけてみても、強いアールグレイの匂いが秋の庭へ充満するだけ。
 ついに、紅茶がほんの少しになってしまった。ニルギリはカップの底にちょっとだけ残ったそれに手を伸ばし、少しの量を両手ですくい取る。
 そしてまた木々の並ぶ林のもとへ走っていった。ダージリンはその背中を見つめながら、この策は間違ったかもしれない、と不安を覚える。
 ティーカップを両手で抱えて持ち上げてみると、もう簡単に持ち上がった。これで最後だろう。ダージリンはニルの言っていた「スイッチ」という言葉を思い出しながら、巨大カップを手にオータム・ガーデンをうろつくことにした。


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