第四章 紅茶伯爵と四季の庭
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「……どうやって?」
「それはわからない」
 ダージリンの問いかけに、伯爵はきっぱりと答えた。
 なんとも無責任なその発言に、かぁっと怒鳴り声が沸きあがってくる。
「出来るわけないだろ! 四季は自然と巡ってくるものだ。直るのを待てばいいじゃないか!」
「それが無理なんだ。フォーシーズンズ・ガーデンは普通の庭ではないからね。前に大きすぎる願いを叶えてしまって、その影響で壊れてしまったようなんだよ。人の力で壊れてしまったのなら、人の力で直せると思うから」
「人の力なんて、無理に決まってるだろ! それにおれは何も持っていないし、どうすれば直るのかもわからない!」
「じゃあ……とりあえず何か道具を送るよ」
 伯爵がようやくため息混じりに答えた。少しは協力する気になったか、とほっと胸を撫で下ろしたダージリンだったが、次の瞬間、息が止まるほど頭が真っ白になった。
 真っ暗な天井から、大きなものが次々に落ちてきている!
「ちょっと待て――っ!!」
 ダージリンは大声で叫び、慌ててその場から駆け出した。
 ドスンドスンと音をたて、次々に送り込まれた“道具”とやらが砂の上に落ちてくる。
 その音がどんどんこちらに近づいている。潰されるかもしれない! ひやりと思った瞬間、ダージリンは砂に足を取られ、頭から埋もれるように砂場に転んだ。
 ドスン! と、鈍い音と振動が背後から伝わってくる。それを最後にようやく落下の音が止むと、突っ伏していたダージリンは恐る恐る体を起こし、背後を振り返った。
 巨大な――何だ、これは。
 ゆっくりと立ち上がると、それはダージリンの背丈以上の大きさのあるものだと気づいた。
 丸い形をしている。薄明かりで模様はよくは見えないが、これは――そう、あのテーブルの上にあった、ティーポットだ。
「うそだろ……」
 ダージリンは唖然とティーポットを見上げ、思わずそう呟いた。
 ティーポットのふたが確認できないところまでいくと、ゆっくりと歩き出し、次々に落ちてきたものを確認していく。
 巨大ティーポット、その次は巨大ティーカップ、巨大シュガーポットに、それにささっている金のスプーン、そして一番大きな、紅茶の缶だ。
 紅茶の缶に貼られた “アールグレイ”のラベルにおちょくられているような感じがし、ダージリンはむっとしてその文字を蹴りつけた。
 ガン、と鈍い音が響くものの、ダメージを受けたのはダージリンの足のほう。ジンジンと痛むつま先を押さえ、ダージリンはまた砂の上にうずくまった。
 その時、背後からカタンと微かな音がし、ダージリンははっと振り返った。
 陶器同士が触れる音がする。ここに、おれ以外に誰か居るのか……――?


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