第四章 紅茶伯爵と四季の庭
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 ダージリンはすぐに立ち上がり、落ちてきた巨大ティーセットを見回した。
 その中で音をたてそうな陶器といえば、シュガーポットとティーカップとポット。音を立てているのは――ティーポットだ。
 注ぎ口からなにやら声が漏れてきた。そして小さな蓋がカタカタと揺れている。
 何か入ってる! ダージリンは顔を引きつらせ、思わず後ずさりした。
「助けて!」
 しかし、次に注ぎ口から漏れてきた声に、ダージリンははっとしてティーポットへ駆け寄った。
 隣に落ちていたティーカップを持ち上げ、裏返してティーポットの側に置く。それを踏み台にし、ティーポットの蓋を持ち上げた。
「あぁ、びっくりしました!」
 その声と共に顔を覗かせたのは、メイドのニルギリだった。びっくりしたとは言っているものの、その目はらんらんと輝いている。
「び……びっくりしたのはこっちだよ」
 ダージリンはそう呟きながら、ニルギリの腕を引っ張ってティーポットの中から助け出した。
 ニルの靴が柔らかい砂に着く頃、ニルギリはぱぁっと目を輝かせ、胸に手を当てて踊るように一回転した。
「だってこんなすてきな体験めったにできないんですもの! グレイ家に伝わる伝説の庭に入れるんですよ、こんな絶好の機会を逃してはいられません!」
 そう言ってらんらんと目を光らせるニルギリに、やっぱりこの子ちょっと変わってる、とダージリンは確信した。
「ニル、君まで行っちゃったのかい?」
 ニルギリの甲高い喜びの声が聞えたのか、伯爵の心配そうな声が頭上から降ってくる。
「伯爵さま、申し訳ありません。でも一度でいいから見てみたかったんです」
「あぁ、好奇心が強いことはいいことだよ、ニル。でもね、そこは今何が起こるかわからない状態なんだ。ダージリンと離れないように、必ず二人一緒に居るんだよ」
「はい、伯爵さま」
 その危険な庭に子供を一人で送り込んだのは自分のくせに。自分の時とはまるで違う伯爵の対応に、ダージリンはベッと舌を出した。


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