第三章 紅茶伯爵とティータイム
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「いいよ。どうせ……叶いっこない、願いなんだから」
 ダージリンが吐き捨てるように呟いた言葉に、また全員の視線がダージリンへ集まった。
 ダージリンはその視線に「何だよ」と睨みをきかせ、すぐにツンとそっぽを向いてしまう。
 そんなダージリンに、ジョルジが呆れたとため息を零し、肩をすくめる。しかし伯爵は何かを思いついたように体を起こし、そして両手をパチンと鳴らした。
「そうだ、オータムナル君、君がその故障を直してくれないか。そうすればきっと、その願いは叶えられる」
 目を輝かせながらそんな提案をする伯爵に、ダージリンはふんと鼻を鳴らし、頬杖をついた。
「おれは機械なんていじれないからな。メカニックにでも頼んでくれ」
「いいや、あれは機械などではないよ。もちろんブリキのおもちゃでもない。そうだな、百聞は一見にしかず、という東洋の言葉を知っているかい? まずは、その目で確かめてくるといいよ」
 どこか笑みを含んだ伯爵の言葉と共に、ダージリンにすっと手が伸ばされた。
 その気配に気付き、ダージリンが視線を戻そうとする。しかしその時、突然体がふわりと浮かび上がり、ダージリンはぎょっと目を見開いた。
 慌てて横を見れば、そこにはミディアム・ブルーの伯爵の大きな目玉。服を引っ張られる感覚――……指で、つままれている!
「うわぁぁ!」
 ダージリンは自分がまるで虫のように小さくなってしまったことに気付き、思わず悲鳴をあげた。
 そして手足をばたつかせて伯爵から逃れようとするものの、伯爵は徐々にその指を下ろして行き、ダージリンをテーブルの上の紅茶に近づけていく。
 むせ返るようなアールグレイの香りがダージリンを包み込んだ。ダージリンは思わず両手で鼻を押さえ、さらに足をばたつかせる。
「何するんだよ! 離せ!!」
「いっておいで。きっと願いは叶えられるから」
 蚊の鳴くようなダージリンの叫びに、グレイ伯爵の太く響く声が囁いた。
 そしてついに、ダージリンをつまむその指がゆっくりと力を緩め、はじき出すようにダージリンを放す。
 肌寒かった気温に薄白い湯気が上がる中を、ダージリンは落ちていった。

 ――外の世界は、何が起こるのか、わからない。





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