それを知ることとなるのは、盛夏を過ぎ、秋の訪れを肌で感じるようになってきた頃のことだった。 この頃龍臣は、昼夜を問わず暇さえ見つけては儂のもとを訪れるようになっていた。 夜は大半の妖が活発に動く。“良い目“を持つ龍臣に余計な関心が向くことのないよう、前々から夜は会いに来るなと口煩く言っていたが、それでも龍臣は、度々儂の寝床に潜り込んできた。 原因は、トミの不在だった。物心つく頃から常に側に仕えていた乳母が、近頃理由をつけて仕事を抜けることが多くなっているのだという。 理由を聞いて、すぐに事情を察した。近頃トミの体調がよくないようだと、つむじからの報告を聞いていたためだ。 龍臣には無駄な心配をかけぬよう、私用があると伝えているようだが、それがかえって龍臣の不安の種になっているようだった。 当たり前にあるものだと思っていたものが、ふとした瞬間に当たり前でないと気づく。そういった時の途方もない寂しさに、龍臣は怯えておるのだろう。 その日も、木陰越しに天の河を見上げていると、腕の下をもぞもぞと潜ってくる気配がした。 「全く……お前のせいで、儂は満足に夜遊びもできん」 文句を言いつつ、寝間着姿の龍臣の帯をつまんで腹の上に上げてやる。 龍臣は寝心地の良い場所を探して這い上がり、してやったりとばかりに笑って見せた。 「ごめんなさい。だって一人だと、なんだか眠れなくて。ニシだってそういうこと、あるでしょ?」 「ふん、赤子でもあるまいに、お前と一緒にするな。しばらくしたら寝床に戻るのだぞ。毎夜抜け出しておるのは知っているのであろうに、お前の親は何も言わんのか」 晩夏とはいえ、夜の冷たさは人の身にはこたえる。片手で包んでやりながら小言を言うと、龍臣は仰向けになり、ふうとため息をついた。 「あのね。前から言おうと思ってたんだけど、あの家で一緒に住んでるのは、僕の両親じゃないよ。僕の母親が今のご当主の姉にあたる人で、僕は叔父様と叔母様にお世話になってるんだ」 「……ほう」 初耳だった。驚きを悟られぬよう、何気なく相槌をうつ。てっきり、あの腰抜けが此奴の親だとばかり思っていた。 思えば、確かに此奴の口から出るのは乳母の名ばかりで、親の話など一度もしたことがない。 毎日忙しく振り回されるあまり、その違和感に気付くこともなかった。 龍臣はくるりとうつ伏せに戻ると、はっきりと泣きも笑いもしない、曖昧な表情を浮かべていた。 (24/43) 前へ* 最初へ *次へ栞を挟む |